
ルポ 京都朝鮮学校襲撃事件
〈ヘイトクライム〉に抗して
中村 一成
2014年2月28日
岩波書店
1,980円(税込)
人文・思想・社会
「不法占拠!」「朝鮮やくざ出てこい!」--2009年12月4日、京都朝鮮第一初級学校は、押しかけた「在特会」メンバーらの罵声で騒然となった。子どもたちと学校を守るために、保護者たちは刑事告訴、さらには民事告訴に立ち上がる。この衝撃的事件は日本社会に何を投げかけたのか。被害者たちの肉声をもとに描く渾身のルポ。 編集部からのメッセージ 2009年12月4日午後,「在日特権を許さない市民の会 (在特会)」のメンバーら11人が,京都朝鮮第一初級学校南門前に集合した.ガムテープを貼ったヘルメットをかぶった男たちが校門前の路上を徘徊し,大音量の罵声を口々にあびせかける.「不法占拠!」「北朝鮮のスパイ養成機関!」「朝鮮やくざ出てこい!」--学校の中で子どもたちがおびえる中,街宣は一時間あまりでようやく終わった.同様の街宣はその後も続いた.保護者たちは,子どもたちを,そして学校を守るために,刑事告訴,さらには民事告訴に立ち上がるーー. 第二次安倍政権の成立に呼応するかのように,ヘイトスピーチ・ヘイトデモが過激化の一途を辿っていますが,そのひとつの原点と言えるのが,この「京都朝鮮第一初級学校襲撃事件」です.結果的に学校の閉鎖・移転を早め,「行動する保守」界隈では「運動の一里塚」「戦果」として語られているこの事件は,被害者に何をもたらしたのでしょうか.本書は,教員,保護者をはじめとした被害者や弁護士などの証言をもとに,事件の詳細や司法の場での闘いなどを再構築し,差別を容認する日本社会の問題を抉り出した渾身のルポです.被害者たちのこれほど率直な証言が語られることは,今までありませんでした.記録としても非常に貴重といえます. 被害者たちが法廷に自らの尊厳の回復を託さざるを得なかった背景には,差別をそれとして裁けない日本の法制度と社会システムの欠落があります.朝鮮学校への差別を人権問題として捉え,日本の人権状況をこの問題から照射する必要があります. 事件の発端から4年が経ちますが,この事件が投げかける問題はあまりにも大きい.被害者側にフォーカスした貴重な記録として,加害者側の「闇」を追った『ネットと愛国』(講談社:安田浩一著)と並ぶ必読書になるでしょう.
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