おそろし 三島屋変調百物語事始

角川文庫

宮部 みゆき

2012年4月25日

KADOKAWA

792円(税込)

小説・エッセイ / 文庫

17歳のおちかは、ある事件を境に、ぴたりと他人に心を閉ざした。ふさぎ込む日々を、叔父夫婦が江戸で営む袋物屋「三島屋」に身を寄せ、黙々と働くことでやり過ごしている。ある日、叔父の伊兵衛はおちかに、これから訪ねてくるという客の応対を任せると告げ、出かけてしまう。客と会ったおちかは、次第にその話に引き込まれていき、いつしか次々に訪れる客のふしぎ話は、おちかの心を溶かし始める。三島屋百物語、ここに開幕。

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3.2 2018年01月27日

現代の我々はトラウマという言葉を案外簡単に使っていますが、トラウマは心が深く傷つくことです。そんな心の傷を負った少女おちかが徐々に心の扉を開いていく物語です。17歳のおちかは、神田三島町の叔父・伊兵衛の袋物屋「三島屋」に身を寄せ、あたかも女中奉公のように黙々と働く日々を過ごしています。おちかの心の扉を開くべく訪れた最初の人間は、兄を見捨てたことに悩む弟・藤部衛です。親代わりとなって育ててくれた兄が、かっとなって人を殺めてしまい、遠島となるのでした。そして、赦免されて帰ってくるのですが、幼い頃から兄に育てられ兄を慕っていたはずの弟は、世間体を考えて帰ってきた兄と会おうともしません。むしろ疎ましく思い始めるのでした。そして、そのことを知った兄は自死してしまうのです。やがて自責の念にかられるようになった藤部衛が自分の心情をおちかに露吐するのが第一話「曼珠沙華」です。藤部衛は思いの丈を打ち明けることによって心の重荷を降ろすことができます。おちかは、深い心の傷を負った他人の体験を聞くことで他人との連帯感を感じ、自分の傷を癒すことができるのです。 こうして、同じような想いを抱える人々の物語を聞くことが、おちかの頑なだった心を開くことを期待した叔父・伊兵衛は変調百物語をはじめました。破格の謝礼目当てに不思議な屋敷に住んだ一家の辿る奇怪な運命を描く第二話「凶宅」、おちか自身が三島屋の女中に語る自らの物語「邪恋」、美しすぎる娘の禁断の恋と彼女の残した手鏡が生んだ破滅を語る「魔鏡」、そして全ての物語が絡み合い、魂の救済が描かれる「家鳴り」です。 こんな風に内容を紹介すると、ヒューマンな心理小説のように思えてしまいますが、そこは現代の語り部を持って任じる宮部みゆきのこと、怪談話か伝奇小説かととんでもない飛躍もします。それだけにストーリー設定に無理があるのでは、と感じる部分もありますが、巧者宮部にかかればグイグイと物語の中に引き込まれてしまいます。 最終章「家鳴り」で登場人物全員が再登場して、大団円となるのですが、ただ一人良助だけが再登場しないんですね。良助とは松太郎に殺されたおちかの許嫁です。おちかは、殺人犯の松太郎には罪悪感を抱いても殺された良助は一顧だにしません。エピローグではそのおちかの心の隙間が指摘されるだけに終わっていますが、サブタイトルに変調百物語とあるように、まだまだ続くのでしょうから、先に楽しみが待っているのでしょう。

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