誰もいない夜に咲く

角川文庫

桜木 紫乃 / 角川書店装丁室 鈴木久美

2013年1月25日

KADOKAWA

726円(税込)

小説・エッセイ / 文庫

寄せては返す波のような欲望に身を任せ、どうしようもない淋しさを封じ込めようとする男と女。安らぎを切望しながら寄るべなくさまよう孤独な魂のありようを、北海道の風景に託して叙情豊かに謳いあげる。

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Readeeユーザー

(無題)

starstarstarstar 4.0 2018年02月10日

桜木紫乃の小説がたまらなく好きだ。好きなワケを色々考えてみたが、「肌が合う」まるで男と女の相性みたいだが、これが一番しっくりくるような気がする。乾燥した空気感がぴったりと合うのだ。桜木紫乃の小説に登場する女主人公(ヒロインなんてのは似合わない)は、今風に大口を開けてわらったりしない。歩くのも大通りではなく、一歩入った裏道だ。薄幸な運命を決して恨んだりしない。黙って受け容れるだけだ。これが男だったら、どんな人物像になるのかと、フト考えてみたときに思い浮かんだのが、宮沢賢治の次の一節だった。 ミンナニデクノボートヨバレ ホメラレモセズ クニモサレズ サウイフモノニ ワタシハナリタイ もしかしたら、桜木紫乃は小説を通して欲望満開の現代人に少欲知足を教えているのかもしれない。 ところで、本書には「波に咲く」「海へ」「プリズム」「フィナーレ」「風の女」「絹日和」「根無草」の7編が収録されている。どれも北海道にひっそり生きる男と女を描いた短編集である。僕にとっては「海へ」がとりわけ好きな作品である。まず、釧路が舞台であるのがいい。18人に1人が生活保護を受けている現在の釧路は、過去の繁栄の名残りが打ち捨てられて、全てが古びて見える。そんな街の雰囲気と同じく、この作品に登場する女は、行く末に希望を描けない日々を生き、男との生活を維持する為に身体を売るのだった。女は男の犠牲になっているのではない。他に術が無いからそうしているにすぎない。傍から見れば悲惨にしか見えない彼女の生活は、彼女が自分で選択した結果だから、嘆きや後悔とは無縁だ。好きでもない男と寝て金銭を得るのは、彼女が男と過ごす時を終わらせない為に選んだ手段にすぎない。 彼女のヒモとなっていた若く美しい男は、まとまった金を用意させ、出て行ってしまった。まとまった金を用意したのは、初老の客・加藤であった。加藤は女に自分専属になることを条件に用立てたのだった。加藤は水産業を営むと称していたが、実はスーパーでさつま揚げの実演販売をしていた。この加藤の惨めったらしい見栄の張り具合がまたいい感じなのだ。

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