さいごの毛布
近藤史恵
2014年3月26日
KADOKAWA
1,650円(税込)
小説・エッセイ
幼い頃から自分に自信が持てず、引っ込み思案。家族とも折り合いが悪く就職活動も失敗続きだった智美は、友人の紹介で、事情があって飼い主とは暮らせなくなった犬を有料で預かる老犬ホームに勤めることになる。時には身勝手とも思える理由で犬を預ける飼い主たちの真実を目の当たりにして複雑な思いを抱く智美は、犬たちの姿に自らの孤独を重ねていく。最期を飼い主の代わりに看取る「老犬ホーム」。身勝手な過去とすれ違うばかりの愛情が、ホーム存続の危機を招いてー。『サクリファイス』の近藤史恵が紡ぎ出した新たな感動物語。
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(無題)
最期の毛布の役割りを果たす施設なので、ブランケットと名付けられました。ローケン施設です。老健?、いえいえ老犬です。様々な事情によって最期を看取る事の出来ない飼い主に代わって、犬のターミナルケアを行う施設に働く3人の女性の人間模様を描いた作品です。作者には、犬が重要な役割りを果たす物語が他にも有ります。キット犬が大好きなんでしょうね。本書中でも、犬に対する深い愛情に基づく箴言を認める事ができます。例えば「犬は上下関係に敏感な動物だから」とか「犬は愛してくれた人の事は絶対に忘れませんよ」、あるいは「犬は昨日を愛する生き物ね。今日も昨日と一緒であればいいと思ってる。特別な事は必要としない。昨日と一緒の家族、昨日と一緒のごはん、昨日と一緒の散歩」などです。あれ、これって何だかそのまま人間社会にも通用しそうです。 この物語、人間と犬の交流を描いていますが、実は親子や恋人、家族といった人間の愛情を表現していたんですね。はっきりとした適応障害とまではいかないまでも、学校や職場の人間関係に馴染めずに、居場所の無さを感じていたり、生きにくさを感じている若者は案外多いものです。本編の主人公・智美は、何時もオドオドして自己主張などとてもじゃないが出来るような性格ではありません。だから新卒後就職した会社も長続きせず、いまは第二新卒として就活中です。問題は面接なんです。蚊の鳴くような声での受け応えでは、結果は知れています。そんなとき、友人に紹介されたのが食住保証、老犬ホームでの仕事でした。人間関係が苦手な智美でも、犬が相手ならと考えたのでした。 老犬ホームのオーナーを見てビックリ。茶髪にきついパーマと派手なネイル。そしてメンソールのタバコを続けざまに吸いながらの面接です。派手な柄物のセーターに豹柄のパンツとくれば、いかにも大阪に居そうなオバちゃんですね。蛇に睨まれた蛙。雌ライオンと草食動物。天敵の出現です。何が気に入ったのか、智美の採用はその場で決定しました。オーナーの麻耶子にも事情があったのです。コストをかけずに新規採用したかったのです。外見からは想像も出来ませんが、麻耶子は元高校教師でした。そして家族と犬にまつわる哀しい過去を秘めていたのでした。 もう一人の重要なバイプレーヤーが、元動物看護師の碧です。特別な資格を持つ碧であれば、もっと条件の良い職場がありそうなものです。何やら「わけあり」が予感されます。その「わけ」は程なく明らかになります。女がブランケットに乗り込んできて碧と修羅場を演じたのです。碧はこの女の夫と不倫関係で、その泥沼から抜け出そうと必死にもがいていたのでした。 こうして、3人の女性と15匹の犬の物語が始まります。
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