記者たちは海に向かった 津波と放射能と福島民友新聞
門田 隆将
2014年3月31日
KADOKAWA
1,760円(税込)
人文・思想・社会
大津波の最前線で取材していた24歳の地元紙記者は、なぜ死んだのか。そして、その死は、なぜ仲間たちに負い目とトラウマを残したのか。記者を喪っただけでなく、新聞発行そのものの危機に陥った「福島民友新聞」を舞台に繰り広げられた壮絶な執念と葛藤のドラマ。
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(無題)
2011年3月11日の東日本大震災。その想像を絶する被害は今でも心の中に深い傷跡を残す。大津波の映像は、吐き気をもよおすトラウマと化している。巨大な海水の壁が襲いかかる恐怖から逃げ惑う多くの人びとの流れに逆らって海岸に向かったのは、福島民友新聞記者だった。彼らを駆り立てたのは、単なる職業倫理だったのだろうか。災害がもたらす混乱時こそ正確な情報が必要とされ、その意味ではメディアに携わる人間の役割りに期待が高まるし、記者にとっても記者魂が震え立つものだろう。 本書は福島民友新聞社が東日本大震災と東京電力福島第1原発事故という未曽有の事態に直面した中で、新聞の編集、発行作業を続けた舞台裏を記録したものである。福島民友新聞の舞台を借りているが、描かれているのは大震災、大津波及びそれを経験した人の心の内である。その模写たるや実に迫力に溢れて感動的である。 創刊以来100年を超える歴史を持つ福島民友新聞は震災によって記者を喪っただけでなく、激震とそれに伴う停電、さらには非常用発電機のトラブルで、新聞が発行できない崖っ淵に立たされた。日付などが記載された新聞の最上部には発刊以来の通し号数が記されている。これを「紙齢(しれい)」と言い、これを途切れることなく毎日更新することは、新聞人として最低の矜恃である。ぎりぎりの状況で、凄まじい新聞人たちの闘いが展開された。 本書を読みながら滂沱と流れる涙を抑える事はできなかった。そこには自然のもつ圧倒的な力の前に呆気なく失われていく人の命、それとは反対にほんのわずかなタイミングで拾われた命、避難生活や前途に希望を失い「お墓に避難します」と自らを絶つ命、人の生き死にまつわるギリギリのドラマが展開されているからだ。傷付き呻き声をあげる人間の魂が裸で転がっているようだ。 福島民友の一記者の死は、生き残った記者たちに哀しみと傷痕を残した。それは、「命」というものを深く考えさせ、その意味を問い直す重い課題をそれぞれに突きつけたのだった。
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