シャングリ・ラ 上

角川文庫

池上 永一

2008年10月25日

KADOKAWA

1,012円(税込)

小説・エッセイ / 文庫

加速する地球温暖化を阻止するため、都市を超高層建造物アトラスへ移して地上を森林化する東京。しかし、そこに生まれたのは理想郷ではなかった!CO2を削減するために、世界は炭素経済へ移行。炭素を吸収削減することで利益を生み出すようになった。一方で、森林化により東京は難民が続出。政府に対する不満が噴き出していた。少年院から戻った反政府ゲリラの総統・北条國子は、格差社会の打破のために立ち上がった。

本棚に登録&レビュー

みんなの評価(6

starstar
star
2.78

読みたい

12

未読

13

読書中

0

既読

53

未指定

79

書店員レビュー(1)
書店員レビュー一覧

長江貴士

書店員

池上永一「シャングリ・ラ」

--
0
2019年12月08日

みんなのレビュー (1)

Readeeユーザー

地球経済

starstarstar
star
3.5 2021年11月25日

【wake up medusa.】 太陽よ、天へ昇り、地を照らせ。 月よ、天へ昇り、闇夜を照らせ。 大地よ、昼と夜を従え、世界を支配せよ。 地球温暖化を阻止するため、都市を超高層建築物アトラスへ移して地上を森林化させた東京。森にco2を吸収させ、劇的にco2排出量を減らすことに成功した。co2削減に苦戦している世界が羨む東京だったが、そこに住む者たちにとっては、新しい東京は理想郷ではなかった。 CO2を削減するため、世界は炭素経済に移行した。 CO2をたくさん出す国には炭素税を課される。炭素は売買され、炭素を吸収削減することで利益を生み出す。カーボニストと呼ばれる経済の申し子たちが生まれた。彼らにより経済は回され、純金の価値は地に落ち、カーボンやグラファイトがかつての純金と同じ様に、高額で取引されるようになった。 ただの炭の塊、鉛筆の芯くらいにしか需要がなかったカーボンが、高値で売買されるとは、時代が変われば、価値のあるものもガラッとかわってしまうのだ。自然災害にみまわれる土地もただ同然だ。土地に価値があった時代は終わったのだ。 はじめは、全員がアトラスに移住できるはずだった。 土地と等価交換でアトラスの居住権が得られるはずだった。 だが、その約束は政府によりあっさり反故された。 理想郷のはずが、蓋を開けてみると、格差社会の始まりだった。 貧乏人は大地にしがみつく人は哀れな一生を送る。 権力者やお金持ちは空中高層建築物アトラスに住み、自然災害や四季など関係なく、世界を見下ろして快適な一生を送る。 地上で産まれた子は、地上しか知らず。 アトラスで産まれた子は、地上を知らない。 地上に産まれた子は、貧困にあえぎ。 アトラスに産まれた子は、不自由なく暮らす。 生まれたときから階級が決まり、そこから抜け出せない。 そんな世界が理想郷などと呼べるのか。 東京が森になる。 地上はジャングルと化し、ゲリラ豪雨や台風にみまわれる。 森林化により東京は難民が続出。 政府に対する不満が噴き出す。 不満が限界に達し、反政府ゲリラが結成され、アトラスをかけた政府との全面戦争が始まった。 何が正義なのか。 何が幸せなのか。 きっと正解はひとつではない。 欲望にまみれた人間は、どれだけ富を得ようとも幸せだと感じないものだ。 欲のない人間は、どれだけ地に落ちようとも小さな幸せを噛みしめるものだ。 エコロジーを追求したその先は? それは他人事ではない世界だろう。 それは現代の私たちが未来にぶち当たる壁だ。 そのときにどう行動するか。 地球はわたしたちに問いかけるだろう。 さて、どうするのかと。 食い尽くし傷ついた地球を、どうするのかと。 その答えが間違っていれば、容赦なく制裁を受けるだろう。 そうならないために、今どうすべきか。 単なる物語ではなく、深く考えさせられる一冊です。 石油価格の上昇が止まらない昨今、石油産出国は近い将来地球の化石燃料が枯渇し一次産業として成り立たなくなることを知っています。だから稼げるうちに稼いでおこう、石油を掘る量を減らし石油燃料の価格をつり上げ、石油がなくなってしまう将来への備蓄に走っているのが、原因です。 日本政府が発表した「2050年カーボンニュートラル宣言」では、2050年までに脱炭素社会を実現し、温室効果ガスの排出を実質ゼロにすることを目標としています。温室効果ガスの大半はCO2です。その排出を完全にゼロに抑えることは現実的に難しいため、排出せざるを得なかったぶんについては同じ量を「吸収」または「除去」することで、差し引きゼロ、正味ゼロ(ネットゼロ)を目指しましょう、ということです。「吸収」や「除去」とは、たとえば、植林を進めることにより、光合成に使われる大気中のCO2の吸収量が増えます。これが、「カーボンニュートラル」の「ニュートラル(中立)」が意味するところです。 2021年1月20日時点では、日本を含む124か国と1地域が、2050年までのカーボンニュートラル実現を表明しています。これらの国の、世界全体のCO2排出量に占める割合は37.7%となります(エネルギー起源CO2のみ、2017年実績)。2060年までのカーボンニュートラル実現を表明した中国も含めると、全世界の約3分の2を占めており、多くの国がカーボンニュートラルの旗を掲げていることがわかります。 あと30年。遠くない未来です。CO2の削減ができなければ、東京が森林になる、そういう事態もなきにしもあらず、なのかもしれませんね。

全部を表示
Google Play で手に入れよう
Google Play で手に入れよう
キーワードは1文字以上で検索してください