業政駈ける

本作は、武田信玄に「業正ひとりが上野にいる限り、上野を攻め取ることはできぬ」とまで言わしめた、西上野の名将 長野業政の晩年を描いた作品。当時、すでに大勢力となっていた武田家の侵攻を、その知謀と胆力で幾度も跳ね返した、知る人ぞ知る名将である。 業政が置かれた環境としては、（戦い方、生き抜き方は別なれど）その後の真田昌幸などと非常に似ているのではないだろうか。 この作品においても、その奇策や知謀が非常に濃厚に描かれており、武田信玄との駆け引きがスリリングでとても面白い。大勢力の狭間の中においても、安易に膝を屈せず、上州人の気概をこれでもかと表現し続ける業政。そして、その気概を表すためには、諜報活動や日々の支度といった準備、相手との駆け引きにおける知略、いざという時に大胆に動く胆力など、小さきものが戦うためには様々な能力を兼ね備える必要があることをまざまざと痛感させられる。 普段の善政で百姓の心をつかみ、しかと準備をしながらも「博打のできぬ者に勝利はない」と言い張る胆力。家臣から見ても相当に頼もしく面白い主君であっただろう。 また、義・人情にあつい人物としても描かれ、盟主（権力者ではない）として仰がれるべき大器量さが様々なシーンで伝わってくる。 作品上、当時の上州の風景や、人々の営みや気質が細やかに描かれる。そんな地域根差した、"小さきもの"が、大勢力に飲み込まれまいと、自分等の生活を守るため戦い続けた。そんな気骨ある武将を描いた作品である。

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