緑の毒
桐野夏生
2011年8月31日
角川書店
1,540円(税込)
小説・エッセイ
妻あり子なし、39歳、開業医。趣味、ヴィンテージ・スニーカー。連続レイプ犯。暗い衝動をえぐる邪心小説。
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(無題)
『嫉妬はこわいものでありますな、閣下。そいつは緑色の目をした怪物で、人の心を餌食にして、苦しめるやつです』シェイクスピアの『オセロ』3幕3場。 さて、イアーゴのこの台詞、何を目論んでいるのか。オセロを嫉妬させようとしているのだ。ムーア人の傭兵隊長としてヴェニスの英雄となったオセロが狂気じみた嫉妬の感情にさいなまれる。その感情は理性では抑え込むことができぬほど強烈であり、オセロは自らの手で妻を縊り殺さねばならぬ羽目になる、それは当然、自分も生きてはおられぬことを意味している。こうしてオセロが嫉妬に取りつかれるのは避けられぬ必然のように描かれ、観客はそこに運命の働きを見るように仕向けられる。 つまりこの悲劇は、たんなる家庭内のいざこざを描いたメロドラマではなく、巨大な運命に翻弄される主人公の、不条理な結末を描いた悲劇なのである。 さて、桐野夏生の「緑の毒」は妻に浮気された男が、その嫉妬心を紛らすために下劣な手段で犯罪を重ねるという物語。開業医の川辺康之は妻の浮気の腹いせに、寝ている女性の部屋に忍び込み、スタンガンと薬で昏睡させ、レイプをし快楽を味わうという所業を繰り返していた。川辺にレイプされた被害者の一人が犯罪被害者のネット掲示板に書き込みをしたのをきっかけに、被害女性たちが次々と名乗り出始め、自分たちの記憶を頼りに犯人探しを始める。彼女たちは、警察に被害届を出すより、自分たちで復讐したいと考えるようになり結束していく。それぞれに違う立場や価値観をもつ被害者たちが、ネットを介して知り合い、犯罪被害によって失ったものを犯人に贖わせようとするあたりは現代的。 妻に浮気された川辺の内面的葛藤が描かれていないのは残念。オセロもイアーゴの口車に簡単に乗せらて妻を疑る単純さは、川辺の軽薄さと通じるものがあるのかもしれない。シェイクスピアを冒頭で引用しているのだから、もう少し人間内面に肉薄した作品にして欲しかった。
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(無題)
途中まではヒリヒリ楽しめたが、ラストが急にコミカルでチープになった印象。もう少し手の込んだ描写で犯人を追い詰めてほしい。スニーカーの伏線も宙ぶらりんだし。
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