捨て童子・松平忠輝(中)

講談社文庫

隆慶一郎

1992年12月1日

講談社

649円(税込)

小説・エッセイ / 文庫

凛々しく成長した忠輝は、越後福嶋藩の大名となる。福嶋藩のキリシタン化を企てる大久保長安には、忠輝を将軍とする新体制をつくりあげる野望があった。忠輝を狙う、兄の将軍秀忠と柳生宗矩。途方もないエネルギーを持つがゆえに、権力者たちの暗闘に巻きこまれていく忠輝の波瀾の生涯を描く伝奇ロマン。

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(無題)

starstarstarstar 4.0 2018年01月27日

歴史の表舞台に登場しなかった徳川家康の実子・松平忠輝を英邁に、また魅力的人物として描いた小説である。忠輝は19歳で越後福嶋の太守に任じられた。しかし、それまでは家康の御曹子ではあっても、決して恵まれたものではなかった。先ず、家康の七男で同母弟の松千代が早世したため、その後を受けて長沢松平氏の家督を相続し、武蔵国深谷1万石を与えられた。下総国佐倉5万石に加増移封され、元服して上総介忠輝を名乗る。続いて信濃国川中島12万石に加増移封される。そして姉婿・花井吉成が家老として補佐することとなった。伊達政宗の長女・五郎八姫と結婚した。 本書では忠輝が順調に出世した裏には、付家老,大久保長安の影がちらつく。将軍の一族から大名に取り立てられた人物には、小姓などの側近を除いて固有の家臣はいないので、藩政を担う家老はみな将軍家から付けられた者となる。附家老は、政務や軍事の補佐を行うとともに藩主の養育の任も担う。したがって身分としては、藩主の家来というよりも将軍直属のお目付け役という性格が強い。 大久保長安と言えば、元・武田信玄の家臣であったが、経済官僚としての才能が認められて家康に取り立てられた人物である。長安は家康の期待に応えて一里塚奉行、関東奉行、金山・銀山における奉行等を歴任して徳川天領すべてを差配する「天下の惣代官」と称され、権勢をほしいままにした怪物である。何よりも家康に金銀の財宝をもたらした鉱山奉行としての働きは、家康も一目置くものだった。産出された金銀の取り分は、四分六分とされていた。幕府の取り分が四分、長安の取り分が六分である。ただし、鉱山開発における諸経費や人夫の給料などは全て長安持ちとされていた。これに対して長安はイスパニアのアマルガム法という新たな鉱山開発方法を導入して、できるだけ経費がかからないように工夫していた。経費をできるだけ節減することができれば、それだけ自分の取り分が多くなるからである。こうして蓄えた長安の資産は莫大なものとなり、資産の蓄積とともに心に秘めた野望も膨らんで行った。それは忠輝の未来を危うくするものでもあった。 ここからが本書の真骨頂である。希代の怪物・長安はキリシタンであり全国70万のキリシタンをもってして武装蜂起し、幕府転覆を図る。その際の総大将として忠輝を担ぎ出すというのだ。

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