海賊とよばれた男 上
百田 尚樹
2012年7月31日
講談社
1,760円(税込)
小説・エッセイ
敗戦の夏、異端の石油会社「国岡商店」を率いる国岡鐵造は、なにもかも失い、残ったのは借金のみ。そのうえ石油会社大手から排斥され売る油もない。しかし国岡商店は社員ひとりたりとも馘首せず、旧海軍の残油集めなどで糊口をしのぎながら、たくましく再生していく。20世紀の産業を興し、人を狂わせ、戦争の火種となった巨大エネルギー・石油。その石油を武器に変えて世界と闘った男とはいったい何者かー実在の人物をモデルにした本格歴史経済小説、前編。
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(無題)
昭和20年8月、終戦の二日後であった。出光佐三は、従業員に対し、「愚痴をやめよ。世界無比の三千年の歴史を見直せ。そして今から建設にかかれ」と訓示した。 当時、多くの企業が人員を整理する中、出光佐三は約1千名の従業員の首を切らないことを宣言した。 本書は出光興産創業者出光佐三をモデルにした伝記小説である。作者の百田尚樹は、実に素晴らしいモデルを得た。百田のこれまでの小説は、いわば、弓をキリキリと絞りに引き絞って最後に矢を放つ感のある構成だった。これは、百田が描こうとする人格を際立たせるためであり、読者にとっては、冗長さを感じるものだった。すばらしいモデルを得ることによって、百田の筆は天駆ける馬を得たかのように冒頭から一瀉千里を走る。 本書の主人公・国岡鐵造は、終戦時に還暦を迎えていた。石油販売会社「国岡商店」の店主だった。 店員は、家族だ。だから出勤簿も定年退職もない。これは揺るがない国岡の信念であった。ぶれない国岡の屹立した人格が全編を貫いている。こんな男がいたんだ。こんな男が現代に欲しい。そんな読者の想いが感動を呼ぶ。 冒頭の出光いや国岡の獅子吼は裏づけがあってのものではなかった。彼のヒト吠えはその場の雰囲気を一変させる。決して命令ではない。信念に裏づけされた誠実さが声の裏にあるから人の心を動かすのだった。 国岡は、昔から収集し続けてきた骨董品などを売り店の存続の足しにした。最終的に立ち行かなくなれば、その時は乞食をしよう、と決めていた。それは、国岡商店を立ち上げる時に、何の見返りも求めずに大金を提供してくれた日田重太郎に言われた言葉であった。 戦後の混乱期に国岡商店は、どんな仕事でも見つけてきてはやった。軍人だった男が持ち込んできたラジオ修理なども手がけていたが、うまくいかない。 ある時、GHQの嫌がらせで、国内に残っているタンクの底をすべて浚えという要請があった。それをやれば、アメリカが石油を回してくれるというのだ。しかし、誰も手を挙げなかった。タンクの底を攫うのは、戦時中石油が欲しくて欲しくてたまらなかった旧海軍でさえやらなかった、キツイ仕事だ。 国岡は、その仕事を引き受けることにした。これをやればアメリカが石油をくれるというなら、日本のためになる。国岡は自分の会社のことよりも、日本の将来のことを考える男だった。 しかし、国岡には敵が多かった。それは多分に、ライバルたちのやっかみだった。 ライバルたちは、国岡商店の恐ろしさを様々な場面で思い知らされている。それは、「メジャー」も同じだ。石油業界は、日本の未来のことなど考えず、ただ目障りな国岡商店を潰すためだけに、ありとあらゆる画策を仕掛けてきた。 しかし同時に、国岡には良き理解者も多かった。国岡という男と一旦関わると、みな国岡の虜になってしまうのだ。 国岡商店の社員も、みなそうだった。どれほど辛い状況であっても、国岡のためにと思えばこそ頑張れるのだった。 こんなに凄い日本人のことを、どうしてこれまで知らなかったんだろうと不思議な気がしてくる。 国岡の凄さは、敵に回した時の恐ろしさばかりではない。国岡の一番の凄さは、「その時何が最も大事であるか」という判断力だ。 終戦直後すべての資産を失った国岡は、社員の首を切らないことを宣言した。これは、「我社の最大の財産は人だ」と判断していたからだ。 とにかく国岡は、人を大事にする。ダメな社員がいても可能な限り教育を与え、すばらしい人材がいれば全権を与える。社員を家族と思い、どんなことがあっても自分が面倒を見る。 さて、上巻は終戦から始まり、それまでの国岡商店を振り返って再び終戦で終わっている。このあとどのような展開が待っているのか、楽しみだ。
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紫陽花
(無題)
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