紫匂う
葉室 麟
2014年4月30日
講談社
1,705円(税込)
小説・エッセイ
心極流の達人ながら、凡庸な勤めに留まる蔵太。二人の子供とともに穏やかに暮らす、その妻・澪。藩校の秀才と謳われ、側用人にまで出世した笙平。澪と笙平は、かつて一度だけ契りをかわした仲だった。黒島藩を揺るがす政争の嵐の中、三人の想いは交錯する…。日本人の心が紡ぐ、美しく、哀しき恋。直木賞作家の新たな代表作!
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(無題)
三人の間に恋愛感情があるのだから、これは三角関係である。いや澪は人妻だから不倫である。いやいや、身体の関係に至ってないのだから、純愛だ。しかし2人の間には、かつて一度だけ、そういうことがあった。とにかく、複雑な思いを抱えたまま物語は進行する。3人とは2人の子の母親である大年増の澪。その夫蔵太は心極流の達人。普段は平凡な役人としての生活を送る。そこに登場するのが、側用人にまで出世した笙平である。 葉室麟となれば時は江戸の世。武士2人と人妻の三角関係である。人の織りなす世であるならば、いつの時代にあってもありうるお話である。それでは記録に残る日本最古の三角関係とはいかに?。記録とは万葉集のことである。 「紫のにほへる妹を憎くあらば 人妻ゆゑに吾恋ひめや」 (ほれぼれとするような、いとしい人だ。そのお前が憎いくらゐなら、既に人妻であるのに、そのお前の為に、どうして私が、こんなに焦がれてゐるものか)と詠んだのが天武天皇。そしてこの和歌は額田王の 「あかねさす紫野行き標野行き野守は見ずや君が袖振る」 (紫草の生えた野を行き、標野を行きながら見張りが見やしないか、いや、見てしまうでしょう。袖を振るのを。) への返歌であった。 万葉集のこの2つの歌には、天智天皇とその后・額田王、そしてその額田王を恋う皇太子(天武)という3人の関係性が窺える。 額田王は「今は天智天皇と付き合っているけれど、大海人皇子は、実はまだ私に気があって、彼は袖を振って好きだと伝えてくるわ。そんなあちこちで袖を振っていたら、見張りの人がこれをみて、秘めた恋がばれてしまうじゃないの」と言っているのである。 万葉集の2首の和歌からこれだけの小説を紡ぎ出してしまう、作家の想像力には脱帽である。 ともあれ『生きることは命の営みである。それは悲しい。しかし、心がけ次第で清々しく生きることはできる』との作者のメッセージは脈々と伝わってくる。
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