世界の権力者が寵愛した銀行 タックスヘイブンの秘密を暴露した行員の告白
エルヴェ・ファルチャーニ / アンジェロ・ミンクッツィ / 橘 玲 / 芝田 高太郎
2015年9月9日
講談社
1,760円(税込)
ビジネス・経済・就職
金融史上最大の顧客データリーク事件が明かしたプライベートバンクと大富豪、政治権力者の闇のコネクション。あなたはまだ銀行の本当の存在理由を知らない。
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(無題)
預け入れ資産三億円以上というのだから、我々庶民にはまるで縁のない銀行である。富裕層向け金融サービスとして広く知られてないるのは、スイス系のプライベートバンクである。プライベートバンクという言葉は、元々は、無限責任をとるパートナーによる個人出資によって運営される銀行を指した。無限責任制や個人出資である事から、顧客の資産管理や資産運用にリスクは取れない。それが富裕層の信頼を得やすい理由でもあった。また、顧客情報の守秘義務は徹底しており、いきおい、その内実は厚いベールに包まれていた。 ところが、本書では英金融大手HSBCのプライベートバンキング部門が個人の顧客を企業として登録するなど、国際税法の抜け穴をくぐり抜けるサービスを提供して超富裕層の顧客を獲得してきたことがすっぱ抜かれている。そして脱税を幇助するため、未申告の「ブラック口座」を開設していたり、顧客側も偽名の使用を銀行に指示するなど、資産隠しに積極的に関与していた実態が明かされたのだ。顧客はアーティストから、企業の役員や国際的な指名手配犯、王族、政治家など10万人以上で、国籍は200カ国以上に及ぶ。武器の密売人、紛争鉱物や紛争ダイヤモンドのディーラーもいる。 本書の著者・エルベ・ファルチアニはHSBCの元従業員でコンピューターシステムの専門家である。内部情報をコピーし、それをフランス当局に提供したのだ。そして米国税庁など10カ国以上の税務当局が捜査に乗り出した。こうして、これまで密かに囁かれてきたプライベートバンキングの暗闇が白日のもとに暴かれた。 本書は告発手記の体裁をとっているが、最も特徴的なのが、異例の長さの序文である。というより、この序文が本書の価値を高めているといった方が的確かもしれない。手記の内容を含めて、背景や経緯を分かりやすく述べているからだ。 しかしまぁ、我々庶民はわずかな所得でも確定申告して納税するというのに、金持ちはどこまで強欲なのだろうか。納税が個人の生命・財産に安心・安全を保証する国家との契約行為だとすれば、タックヘイブンのように国家の枠組みを易々と乗り越えるボーダーレスの時代の納税は、どうなっていくのだろうか。
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