死因不明社会

Aiが拓く新しい医療

ブルーバックス

海堂尊

2007年11月30日

講談社

990円(税込)

小説・エッセイ / 美容・暮らし・健康・料理

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-- 2019年12月14日

海堂尊「死因不明社会 Aiが拓く新しい医療」

本作は、「チームバチスタの栄光」で鮮烈なデビューを飾り、その後も立て続けに高いクオリティの作品を発表し続けている海堂尊が出した初めての小説外作品である。 さてここで海堂尊の目的について書こうと思います。海堂尊は何も作家になりたかったから作家になったわけではなく、ある大きな目的を推進する一つの要素として作家になったわけです。 それが本書の焦点でもある、Aiの普及です。Aiが何かはまあ後で書くとして、海堂尊はこのAiを導入させるという目的のために作家としての活動を続けているわけです。海堂尊は現在も病理医として二足のわらじの生活を続けていますが、あれだけベストセラーを連発してなお作家専属にならないのにはそういう理由があるわけです。 海堂尊の試みは徐々にではあるけれども功を奏しているようであり、厚生労働省はAi普及について検討する会のようなものを2007年10月に発足させたようです。これが海堂尊の小説の効果であるかどうかは検証できませんが、まず間違いなくそうでしょう。なかなか凄いものです。厚生労働省が動き始めたからと言って進展するかどうかは微妙なところで、それは過去にも厚生労働省は適当なやり方でお茶を濁すようなことばかりやってきたからですが、それを食い止めるべく、一般人である僕らがAiというものを理解し、海堂尊の目指すものを応援しなくてはいけない、とまあ僕は思ったわけです。 というわけでじゃあAiとは何じゃいという話ですが、要は死体を解剖する前に画像診断しましょう、というような話です。以下いろんなことを書きますが、恐らく厳密性には欠くと思います。そもそも厳密な説明は出来ないと思いますが、厳密さよりも分かりやすさを優先して書こうと思うのでその辺は悪しからず。ちゃんとしたことを知りたい方は本書を読んでください。 まず現状の日本では、解剖率がたったの2%であるという事実があります。世界全体で解剖率が低下しているとはいえ、欧米でも15%くらいなのが日本ではたった2%。つまり残りの98%は体表から分かる情報だけを頼りに死亡診断書が書かれているわけです。 で、何でそんな状況になっているかと言えば、それはほぼすべて厚生労働省が悪いわけで、何故なら厚生労働省はこれまで、解剖には一切予算を与えなかったからです。つまり日本で解剖をするとすれば、すべて病院負担で費用を賄いながらやらなくてはいけなかったわけです(司法解剖は別ですが)。じゃあ何故厚生労働省は予算をつけないかと言えば、それは単純に解剖は金にならないからで、未だにいろんなやり方でお茶を濁しては、なんとか解剖に予算をつけずに済むように立ち回っているわけです。 海堂尊はなんとかこの現状を打破したいと思ってAiを提唱したわけです。 じゃあまず、何故解剖率2%という現状がまずいのか、というところから説明しましょう。ほとんど解剖をしないということは、本書のタイトルにもあるように、ちゃんとした死因がわからないということです。では何故死因がわからないことが問題なのかと言えば、それは以下に挙げるような理由からです。 1.死因が判明しないことをいいことにいい加減な医療を受けさせられる 2.犯罪を看破できない 3.医療へのフィードバックが出来ない 本書には他にもいろいろ書いてあった気はしますが、ちょっと忘れてしまったのと、あと一般人に大きく関係しそうなのがこの3つかなと思うのでとりあえずこの3つについて書きます。 1の例として出されていたのがホスピスなどの終末医療です。終末医療の現場で、死因を調べるための解剖をしなくていいということになれば、医療そのものが適当であっても誰にも分からないことになります。穏やかな死を迎えるためにある終末医療施設で適当な医療を受けさせられるのは哀しいものです。 また、医療事故なんかもこれに含まれるでしょう。法律上は、普通じゃないと判断された遺体はすべて解剖しなくてはいけないのに、現状では2%しか出来ていない。手術中に患者が亡くなるようなことがあった場合、解剖をしなければ正確な死因がわかりません。これでは、医者の横暴を許してしまうということになります。 2も結構怖いですね。これも実例が出ていましたが、体表からの検案では事件性なしと判断された遺体を画像診断してみると、明らかに外傷性であると分かる損傷が確認できたケースがあります。現行では、警察官が体表を検案して事件性なしと判断すればそこで終わり。もし事件に関わりのある遺体であってもスルーされます。こうして見過ごされている事件が恐らく山のようにあるだろうと思います。 また児童虐待なんかも現状では発見が困難です。司法解剖以外の解剖には必ず保護者の同意が必要です。もし、ちょっと虐待の可能性があるなと思って医者が解剖を要求しても、保護者がダメと言えば解剖は出来ません。もしその保護者が実際に虐待を加えていたとするならイエスと言うわけがないので、これまた事件を見逃すことになります。 3は、これも実例が載っていました。ちょっと難しい話で僕もそんなに理解できているわけではないですけど、これまでの医学では大量失血死の際に血管の隅々にまで空気が入り込む可能性がある、ということを認識できていなかったようです。しかしある遺体を画像診断した際にそういうケースがあることが確認できました。こうして遺体の画像診断情報を蓄積していくことで医学というのは進歩していくはずなのに、解剖率24%という現状では医学へのフィードバックが明らかに不十分であるわけです。 というわけで海堂尊はAiを提唱するわけです。本書を読むと、これだけ素晴らしいシステムなのに、何故厚生労働省は何もしないんだ、と思います。もちろんお金にならないからなんですけど。現状は、厚生労働省がきちんと予算さえつければ、今すぐにでもこのAiというシステムを動かすことが出来るわけです。 Aiというのは、遺体をCTスキャンやMRIと言った画像診断機器で検索することです。このメリットを以下に書きましょう。 まず、解剖というのは遺族の許可なしでは出来ません。遺族というのは、遺体に傷がつくことに大きく抵抗を見せます。しかしこのAiの場合、画像診断をするだけなので遺体への損壊は一切ありません。これは遺族の側、そして解剖をお願いする医者両者の精神的負担を軽くします。 またAiなしでいきなり解剖をする場合、解剖して何もありませんでしたという情報は医学的には無意味ではないですけど、遺族としてはあまり納得が出来ないでしょう。しかしAiをまず行うことで、解剖が必要なのかどうかということをかなり高い確率で判断することが出来るし、また医者の側としても、画像診断のデータを見せながらこれこれこうだから解剖の必要があるんです、とやれば説得力があるし、遺族も納得しやすいということがあります。 またもちろん、先ほど挙げた死因がわからないことへのデメリットはすべて解消されます。Aiが導入されれば、病院もミスを隠すことは難しくなるし、犯罪を見逃すことも少なくなるし、また画像データはどんどん蓄積が可能なので、医学へのフィードバックは計り知れないものになるわけです。 実際現場では既にAiに似たようなことを行っているわけです。救急医療の現場では昔からPMIと呼ばれるAiと同じようなやり方で画像診断をしていたし、また遺体への画像診断を生きてる患者への画像診断であると偽って請求しているようなこともあるようです(つまりこれは、遺体への画像診断にはお金が出ないけど、生きてる患者への画像診断ということにすれば普通に診療報酬が出るからということ)。海堂尊は看護学生や医者の卵なんかにアンケートをとったこともあるようで、Aiは導入すべしという意見が圧倒的多数を占めたようです。 本当に後は、厚生労働省が重い腰を上げるだけです。現場レベルではAiの有用性は十分理解されているのに、トップではその意義が理解されない。まあよくあることですけど、なんとかならないものかなと思ったりします。 さてさて時間がないので残りは駆け足で行きますが、本書は二つのパートが交互に展開する形で進んでいきます。海堂尊の小説内キャラクターである厚生労働省の役人である白鳥と新聞記者である別宮が対談するパートと、海堂尊による学術的なパートです。白鳥と別宮の会話形式のパートで分かりやすく概略を理解した後で、それについて海堂尊がより深く学術的な内容を掘り下げていくというスタイルは非常に分かりやすくて読みやすいです。また、著者の立場が比較的中立みたいな感じの立場で、Aiは絶対必要だけど別に誰かと対立したいわけじゃないというような立ち位置が好感が持てるし、無理なものは無理だし出来ないものは出来ないとちゃんと書いている辺りがいいと思いました。 それにしてもホント海堂尊は頭のいい人なんだろうな、と思いました。羨ましい限りです。 僕は本書を売り場に平積みにしていますが、「バチスタを読んだあなたには本書を読む責任がある」っていう文章を手書きの帯にしてつけたりしてみました。非常に海堂尊を応援したくなる内容です。海堂尊の悲願が達成されるように、皆さんも本書を読んでAiについて理解を深めましょう!

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