芸術脳の科学 脳の可塑性と創造性のダイナミズム
ブルーバックス
塚田 稔
2015年11月20日
講談社
1,012円(税込)
美容・暮らし・健康・料理 / 新書 / 医学・薬学・看護学・歯科学
創造する脳がどのようにつくられ、いかに芸術を生み出すのか?科学者であり芸術家でもある著者が、最新の脳研究から新たな境地へ挑む!
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(無題)
「科学をあなたのポケットに」と銘打った講談社のブルーバックスは、難解な科学を一般読者向けに専門家が解説した新書シリーズである。最近の新書はどれも読みやすくなっているので、本書も抵抗無く読めると思ったが、正直なところ、歯が立たなかった。 人間を人間たらしめている脳の働きと、人間のみに与えられた芸術を脳のメカニズムから解き明かそうとするのだから、これほど興味をそそるテーマは無い。しかし斯界の泰斗を持ってしても、素人の読者に平明に語るのは至難の技のようだ。芸術作品は、芸術家の脳内に形成された再現的世界と脳内に情報を創発させる情報創成の世界が相互に干渉し合って新しく作り出された世界である事が、ぼんやりと理解できた程度である。 本書前半の脳が情報を生成する仕組みの解説はむづかしいので、後半、芸術脳の視点から芸術作品を鑑賞する部分を取り上げてみたい。まずはピカソ、モネなどの作品を見たときに脳の活動する領域が違う、と言う指摘は実に興味深い。例えばモネの絵の中には連続した長い線がないのだそうだ。モネは縦・横・斜め、三方向の短い線で絵を構成している。そして脳の視覚一次野という、視覚の情報処理を行う領域には、この三方向の線に強く反応する神経細胞があるのだそうだ。モネの絵を見ると、この神経細胞が普段以上に活動することになる。 さらに、人は視覚からの物理的な光の情報だけではなく、別の情報も得ている。人が物を見るときにはイマジネーションもわくし、過去、現在、未来への予測や推論なども表われる。脳内の記憶や連想が重なって、その総体として人は物を見ているのである。こうした記憶や推論を扱う脳内の領域は、ピカソの作品を見るときに強く活動しているという。ピカソは、三次元立体である人の顔を、多数の視点からとらえて二次元に合成する表現を生み出した。キュビスムである。それは、写真とは異なる、私たちの物の見方を映し出したと理解することもできるのだ。 そう考えると、彼らの絵は私たちの脳内にそういう世界がある事を示唆しているのかもしれない。その意味では、過去の優れた画家は脳の研究家と言い換える事もできる。作家と鑑賞者は、作品を通じて時空を超えた脳のコミュニケーションをしているのかもしれない。
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