スプートニクの恋人

小気味良いユニークな筆致、冗長で独特な構文、『ぼく』と端麗な女性との蜜月関係、奔放不覊な人物、読者に解釈を委ねる結末、そして人間の本質の一つにある孤独。村上春樹を色濃く感じ取ることができる小説だった。 題目のスプートニクとはロシアが打ち上げた世界初の人工衛星である。これは旅の伴侶という意味があり、人生やギリシャ旅行の伴侶として描かれた3人の登場人物を指しているのであろう。ただし、人工衛星のため、誰とも交わらないという象徴としても描かれてもいる。人間の本質に孤独はある。誰とも本当に理解し合うことができないからだ。僕とすみれ、すみれとミュウは愛情深く接しているが、人工衛星と地球のように交わることがない。 孤独を題材にした村上春樹の小説は多々あるが、『太陽の西、国境の南』が傑作であろう。 この作品はすみれの失踪やミュウの自己視幻覚を異世界を用いて描いていた。村上春樹の文学的、詩的な描写は読んでいて心地よいが、個人的には今作品のような作風は現実的でないためあまり好まない。精神科医としての分析ができなくなるからだ。もちろん想像を掻き立て、主観的な思惟、思考を理解する姿勢は精神科医に問われるが、個人的に精神医学や心理学の知識で本を理解したい気持ちが今は強い。ただこの読書方法は意味に囚われ過ぎている。人生は意味だけではなく、リズム、感性、芸術も大事な側面にある。つまり、言葉は意味だけでなく、言葉によって紡ぎ出されるイメージの連鎖、それを並べることで生じるリズミカルな感性を享受する姿勢は人生を楽しむ上で重要である。自分は意味や生産性に囚われる傾向があるため、人生をもっと享受するためにリズムやイメージを大事にすべきであろう。 今回は、韓国旅行の伴侶に選んだ一冊だった。ホテルのカフェから見える雪化粧を背景にした読書は至福のひとときであった。

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面白かった。こんなにスラスラ読み進んでしまうとは。 ラスト、すみれは戻ってきたのだろうか。 それともぼくの夢の記述なのだろうか。 唐突に展開が変わるところがいくつかある物語だ。 ミュウの観覧車の出来事はぞくぞくとする。 ねじまき鳥クロニクルの皮剥ぎと井戸のシーンぐらい印象的だ。（すっかり忘れていたけど）

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