
天狗風
霊験お初捕物控2
講談社文庫
宮部みゆき
2001年9月15日
講談社
859円(税込)
小説・エッセイ / 文庫
一陣の風が吹いたとき、嫁入り前の娘が次々と神隠しにー。不思議な力をもつお初は、算学の道場に通う右京之介とともに、忽然と姿を消した娘たちの行方を追うことになった。ところが闇に響く謎の声や観音様の姿を借りたもののけに翻弄され、調べは難航する。『震える岩』につづく“霊験お初捕物控”第二弾。
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(無題)
人には見えぬものが見え、聞こえぬものが聞こえる霊験お初シリーズ第二弾。幽霊だの呪いがでてくる割には、全体的に明るくて健康的だ。猫が大活躍する。名前は鉄。人語をあやつり、神出鬼没、時には化けてさえみせる猫だが、普段はかわいい子猫。鍵しっぽで、手足の先が足袋をはいたように白い、小さなトラ猫ちゃんである。人への甘え方も心得ている。その鉄と、仲間の猫達、および、人間のお初達が力を合わせ、恐ろしい‘天狗’と戦う。さてこの天狗の正体とは。 半月後に婚礼が決まっている、おあきとその父親の政吉、二人を真紅の異様な朝焼けが包み冷たい凶風が吹き抜けた後、おあきは行方知れずになる。御前さまの依頼を受けて霊感娘・お初と算学侍・右京之介が立ち上がる。高積改役・柏木の神隠し体験談、幻の血の雫を残していく定町廻り同心・倉田主水、「姉さんなんか、死んじまえばいい」と心で叫ぶお律の妹・お玉。「とり殺すぞ」という謎の声はただの脅しではなく、猫の、便乗身代金誘拐犯の首なし死体がころがる。 さらには怪しげな商売に手を染めている浅井屋、やけどで爛れた顔を元に戻そうと物の怪の手引きをする娘、阿片中毒の伊左次の鬼気迫る暴れっぷり、毒の吹き矢を使う暗殺者の暗躍、女の妄執が凝り固まって火をつけても燃えない小袖。おどろおどろしい世界が繰り広げられる。 一方、不詳の息子・右京之介と一膳飯屋の娘・お初の仲をそれとなく認める古沢武左衛門の言葉。お初が右京之介にそれを伝えると「私には、他のどんな美しい姫君やお嬢さまよりも、お初どのが美しく見えることがあります」野暮天だった男も進歩している。 超常現象を無理なく現実世界に取り込んで、読者に違和感を与えずストーリーに引き込んでいく。物の怪よりもそれを産む人の心がメインテーマ。神隠しから救われたお律と抱きあって号泣するお玉の姿を見ると、人の心は一筋縄ではいかず本人にも捕らえきれないようだ。背筋がザワッとして、ホロリとさせられ、考え込む。そして、爽やかにまとめてくれている。
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