ダンス・ダンス・ダンス（下）

風の歌を聞け、1973年のピンボール、羊をめぐる冒険に続く最終作として、素晴らしい締め括り方だった。彼は大事な人を失い続け、喪失感と孤独感に苛まされた結果、同一性の連続が破綻し、日常の安心感を失った。親友の鼠、愛してたキキ、元妻を失ってきたのだ。今日存在していても明日には不在に変わるかもしれない。昨日と今日の自分が地続きであるという感覚が蝕まれ、今日そばにいる人も明日にはどこかへ去ってしまうかもしれないと世界は不確実性をもった孤立無援なものとなっている。そんな世界で、彼は、表題の「ダンスダンスダンス」のようにダンスをし続けた。ダンスとは、絶望に飲み込まれず、意味のなさに呑まれず、それでも生きるという行為のメタファーだ。彼は喪失感や孤独感を蜂起する過去や未来の亡霊に囚われるのではなく、現在という一瞬に焦点を当て、キキの行方を追うことで、今をつなぎ止めようとした。失ったものを悼みながらも、とにかく動き続ける、何かしらの行動することは、喪失を代償する唯一の軸である。 彼は知的で論理的でユーモアのある人物だ。しかし孤独を感じて他者との繋がりを求める一方で常に他者や社会と距離をとり続ける。これは、精神医学では回避性パーソナリティ障害、愛着理論では回避型愛着スタイルに該当する。他者や社会と距離をとり続けるのは、他者とつながることで自己の脆弱性をさらされ、拒絶されることで、自己そのものが壊れてしまうという深層的な脅えがあるからだ。羞恥心・自己評価の低さにより、他者との距離を保ってしまう。他者と繋がりたい気持ちが強い分、他者に対して敏感になってしまう。そして敏感になる分、他者からの評価が気になってしまう悪循環に陥る。この連鎖を断ち切るためには、絶対に裏切らない今ここにある自分の感覚を信じることだ。それは、正しくあろうとせず、自分の納得感を大事にするということだ。正しくあろうとする行為は他人の評価を気にしていることに過ぎないことを忘れてはならない。 ただし回避性パーソナリティ障害の性格傾向は、繊細さがあるからこそ、内省力や優しさ、そして賢さがある。性格は表裏一体、いいところと悪いところは見方次第で評価が変わるだけだ。 村上春樹の主人公の多くは回避性パーソナリティ障害の傾向があるが、上記のいい面を上手に活用しつつ、他者からの評価を気にしないように自分の納得感、感覚を優先して行雲流水、晴耕雨読のような生活している。そういった価値観を特に感じられるこの一冊は、とても読み心地が良い。 ps この本は台湾の背景小説となった。背景音楽、背景小説は旅の刹那的な感覚を色濃く蘇らせてくれる。

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最後の最後残り50Pくらいでどんどんわかっていく真意にうわーと思った。 けど、遠回しな言い方や物事が多くて、 下の残り50Pくらいは速読の読み方で読んでしまった。

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