
新装版 限りなく透明に近いブルー
講談社文庫
村上 龍
2009年4月30日
講談社
605円(税込)
小説・エッセイ / 文庫
村上龍のすべてはここから始まった! 文学の歴史を変えた衝撃のデビュー作が新装版で登場!解説・綿矢りさ 米軍基地の街・福生のハウスには、音楽に彩られながらドラッグとセックスと嬌声が満ちている。そんな退廃の日々の向こうには、空虚さを超えた希望がきらめくーー。著者の原点であり、発表以来ベストセラーとして読み継がれてきた、永遠の文学の金字塔が新装版に! 〈群像新人賞、芥川賞受賞のデビュー作〉
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圧巻すぎる
starstarstarstarstar 5.0 2024年02月25日
違法薬物、暴力、セックス、お酒等に浸った若者の物語。目も当てられない程、退廃的な荒んだ状況は、五感全てで感じ取れるような描写によって読者に襲いかかり、気分を悪くする場面ばかりだった。しかし、そんな禍々しさに耐えて読了できた訳は、心が躍る程の圧倒的な筆致と主人公に対する親和性があったからだ。
主人公は、他の登場人物と同様に荒廃した生活を送っているが、他の登場人物と比べると、どこか淡々としている。心に蓋をして、厭世観が漂っている。
他の登場人物と同様に彼も破壊的な行動をしているということは、内なる攻撃的な欲求が強い。その対象は明瞭ではなく、言語化できず、靄のかかったような巨大な敵となっている。セックスにお酒、違法薬物といった自傷行為をすることで解消しきれない不安を対処している。その結果、精神分析的には解離や抑圧否認の防衛機制を使うという表現になるが、心に蓋をすることで離人感が募っていく。言い換えると、外界に対する情動が乏しくなっていく。刹那的な感情が湧かないと、自分自身に対する所属感も希薄になる。これ以上、世界に対する疎外感を感じないよう、自分の存在を確かめるために、更なる自傷行為を重ねて、不安を解消していく。この物語は、この悍ましい不安と延々に戦っているのだ。
物語の最後は、離脱症状もしくはフラッシュバック現象を精巧な筆致で描いた心理描写が怒涛に押し寄せるため、不安から心が抉られると同時にその筆致に恍惚的な気分になった。ラストページで夜明けの空気を映ずる破片のガラスを「限りなく透明に近いブルー」と指していた。彼は「このガラスみたいになりたいと思った」と書かれている様、彼の求めているものは清澄な心である。彼は心に蓋をすることで、汚い世界を見続けることに耐えてきた。その蓋を外し、つまり「俺が見ようとする物を俺から隠している鳥」を排除し、刹那的な感情を取り戻したいと切に願っている。彼は元々清澄な心、つまり感受性豊かで繊細な心を持っていたのであろう。しかし世の中の汚い現実を目の当たりにしたことで、抑圧、否認、解離といった防衛機制、この物語でいう「鳥」を使って回避し、今に至ってしまっているため、そこから脱却しようと奮闘している描写だった。
また綿矢りさの解説は更に自分を愕然とさせた。あまりにも簡にして要を得ており、自分が感じたふわっとした感想が見事に書き表されていた。「電子レンジの光を浴びているみたいに、表面的には何の変化が無くても中から熱くなり破裂する。内面が傷だらけになったとき、〜」という表現には唸った。また「汚いものを見た結果、世界が薄汚くみえて、なかなか拭い去ることができないが、再び元の世界に戻るためには、もう一度世界の美しさを信じるしか方法がない」ということには、自分も感受性豊かで繊細さをもっているから強く共感できた。
評価を満点としたのは、厭世的な価値観に連なる内なる攻撃的な欲求が、この本を読むことで代償されたからであろう。
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貝沼 晃成
圧巻すぎる
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