若様組まいる

講談社文庫

畠中 恵

2013年7月31日

講談社

880円(税込)

小説・エッセイ / 文庫

時は明治二十年ー。世が世なら若殿様のはずだった旧幕臣の子息たち、人呼んで「若様組」の面々は、暮らしのため巡査を志し、芝愛宕の教習所に入った。だが、街中でピストル強盗の噂が絶えないなか、教習所内でも銃に絡む謎の事件が勃発。若様組に薩摩組、静岡組、平民組が入り乱れての犯人捜しが始まった!

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Readeeユーザー

(無題)

-- 2018年01月22日

徳川の世であれば若様と呼ばれていたはずの旗本の子息、長瀬健吾たちも維新から20年も経った今では暮らしのため、巡査になることを決意するのであった。この年、巡査が一般公募されることになったのだ。巡査になるための座学・実技指導を受けるために愛宕の巡査教習所に入所してみると若様組の他、官軍ではあったが新政府に士官できなかった薩摩組、一大名となった徳川家とともに静岡に下った静岡組、商家の子息達の平民組に大別できる巡査予備軍に巡り合ったのだった。巡査は官吏とはいうものの、最低の俸給であったため、人気は低かった。そんな巡査に志願するくらいだから、誰しもがいうにいわれぬ事情を抱えていた。しかも巡査教習所は、所長でありながら教習所を否定する男やあからさまに依怙贔屓するNO2の幹事、座学の教師は官吏であるからまだしも、武道師範に至っては臨時の吏員だから不満を抱いていても当然だ。そんな個性豊かで様々な事情を抱えた面々がミステリーを繰り広げるのだ。 私たちは、明治維新を徳川封建国家を一夜にして合理的な近代国家に導いたものとして高く評価しているだろうし、その後の明治という時代を新しい国家建設に邁進した明るく活力のあった時代としてイメージしていることだろう。しかし、これは近代合理主義を善とする一面的捉え方ではなかろうか。日本人の精神性から言えば、貧しくても幸せであった時代から豊かではあっても幸せを実感できない時代への転換点であったとの見方もできる。だから、現代の私たちにとっても江戸時代には、ノスタルジー以上の物を感じるのはその為ではなかろうか。また、明治政府という中央集権国家建設のための廃藩置県や四民平等、廃刀令等の一連の政策は、徳川時代の立役者であった武士が身分と職業、戦闘能力を失うことを意味した。 本作でも長瀬健吾は、士族は商売には向いてないし、賊軍出身だから官吏になっても出世は見込めない、だから巡査になってはどうか、と若様組の面々を誘う。この選択は現代人から見れば唐突に映るが、この当時の没落士族にとっては唯一の選択肢であったことは想像に難くない。また、長瀬らのように体制順応型の士族ばかりではなく不平士族の存在も看過し得る数ではなく、当時の治安は必ずしも良いとは言えなかった。本作でも重要な役どころを担うピストル強盗の出没は現実のものとして起こり、社会不安を惹起したようだった。 明治の警察官はサーベルしか携帯してなかったにもかかわらず、ピストル強盗に立ち向かったのだから恐ろしい。作中でも西洋菓子職人であるミナがピストルの射的の名手である理由は、外国人居留地で西洋人からピストルの射的の指南を受けていたからだ。当時、外国人は居留地の外を出歩くときは必ず拳銃を男女問わず携行していたそうだ。本作は長瀬ら若様組の巡査教習所での日常を描きながら、弾丸横流し事件の犯人探しをするミステリーであるが、難しいこと抜きに楽しめる作品である。

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