下り坂をそろそろと下る

講談社現代新書

平田 オリザ

2016年4月13日

講談社

946円(税込)

小説・エッセイ / 新書

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Readeeユーザー

(無題)

starstarstarstar 4.0 2018年02月14日

日本人が今、自らの国がどこにいると考えているのか、実はそれが最も大事だ。つまり、現状をどう認識するかである。それは、世界がどうなっているかを冷静に見つめることでもある。平田オリザは我が国に対する「幻想は捨て去るべきである」という。この国が輝ける工業立国であったのは、もはや過去のことになった。この国の経済はいまや、成熟期に入った。したがって、かつてのような高度成長を期待してはいけない。この国はもはやアジアにおける唯一の先進国ではない。これらの現実をしっかりと見据えるべきであると言う。 この国は製造業の国、優れた工業製品は、必ず売れるから、それを輸出して企業実績をあげれば、それがやがては国内の中小企業にも好影響を与える。こんな産業観に立てば、円安誘導の為替政策を実施したくなるはずだ。事実アベノミックスのターゲットはここにある。ところが、少しばかり視点を変えれば、この国は全く違って見える。まずは、この国は「輸出で稼いでいる」とは言えない現実である。我が国の貿易収支は5年連続で赤字なのだ。一方で国際収支は黒字なのだから、貿易以外の稼ぎ頭がいることになる。知的所有権や海外投資先からの配当収入である。つまり、工業立国のモデルは完全に過去のものとなったのである。事実、第二次産業に従事するのは労働人口の25%程度で7割近くが第三次産業従事者となっているのである。そしてブラック企業や長時間労働、低賃金労働といった雇用の負の面は概ねサービス業に集中している。人権が守られるような雇用システムが確立されていないからである。さらには教育や福祉などの社会システムも時代にマッチしたものに組み替えなくてはならない。 この国の資本主義は新たな段階に入ったのであり、それはとりもなおさず衰退期に入ったと言いなおす事も可である。だから、かつての高度経済成長を再び取り戻すことはできない、と覚悟すべきなのだ。では、アメリカが製造業から金融業にシフトした例に習えば良いかといえば、それはできない相談である。やはり、我が国独自の道を探さなくてはならない。 ところが、このことを認めるのは辛くて寂しい事である。だから、安倍晋三首相は「アベノミックスは間違っていない。道半ばである」と強弁するし、人々は安倍首相の言葉にすがりたいと思うのである。その裏返しの表現が嫌韓・嫌中やヘイトスピーチである。世の中全体の右傾化もその延長線上にある。さらにその先に何が待ち構えているかを考えると、嫌になってしまう。それだからこそ、衰退期の下り坂をオロオロしながら、そろそろと下る事を考えなくてはならないのだ。

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