図書館の魔女 烏の伝言 (上)
講談社文庫
高田 大介
2017年5月16日
講談社
858円(税込)
小説・エッセイ / 文庫
道案内の剛力たちに導かれ、山の尾根を行く逃避行の果てに、目指す港町に辿り着いたニザマ高級官僚の姫君と近衛兵の一行。しかし、休息の地と頼ったそこは、陰謀渦巻き、売国奴の跋扈する裏切り者の街と化していた。姫は廓に囚われ、兵士たちの多くは命を落とす…。喝采を浴びた前作に比肩する稀なる続篇。
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(無題)
言葉とは何であるか。これを小説を使って表現したのがこの作品である。それだけに、難解である。人間は言葉を使って考える。それでは、言葉を使う事が出来ないろう者は、どう考えるのだろうか。ろう者は、手話という日本語と異なる言語を使って考えるのである。我々健常者は手話を日本語に置き換えて、日本語で考えていると考えがちであるが、そうではない。言語を考える上で、ここが大事なところだ。次にろうあの「あ」は、しゃべれない事を意味する。図書館の魔女・マツリカは古今の書物を繙き、数多の言語を操ることができる。しかし、彼女は喋る事は出来なかった。 マツリカが喋りを得たのは、図書館司書見習いの少年・キリヒトが出仕してからだった。キリヒトの才能を見抜いたマツリカは、手話では伝えきれない微妙なところまで表現できる手段として指文字を進化させた指話を開発した。こうしてマツリカは、多くの人々に自らの意思を広く伝える手段を手に入れるとともに、細やかな情の交流ができる友を得たのだった。 マツリカに刺客が放たれた。絶体絶命の危機を救ったのはキリヒトであった。キリヒトは単なるマツリカの通訳ではなかった。マツリカのボディーガードの役割を秘めていたのだった。キリヒトは切人、すなわち天下無双の戦士だったのだ。 この物語は、ファタジーと言って良いだろう。ところが、作者が構築した架空世界の自然環境・人種・衣服・建築様式・政治機構・言語・食などがかなり詳しく述べられている。それはあたかも古代ローマ帝国をイスタンブールに持ってきたと読者に想像させる設定であり、歴史を踏まえてるだけに信憑性を高めている。一の谷の版図を縮小して国防費の削減を目指すマツリカの国家戦略は、かつてのローマ帝国の国家戦略と同じではなかったか。古代ローマでは、帝国内に当時の高速道路ともいうべき街道網を張りめぐらし、国境警備の兵力を削減することに成功していたのだから。
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