
告解
薬丸 岳
2020年4月22日
講談社
1,815円(税込)
小説・エッセイ
心から笑える日は来るのだろうか。 あの日、人を殺してしまった僕にーー 『天使のナイフ』『友罪』『Aではない君と』 贖罪の在り方に向き合い続けてきたからこそ辿り着いた、慟哭の傑作長編。 ーー罰が償いでないならば、加害者はどう生きていけばいいのだろう。 飲酒運転中、何かに乗り上げた衝撃を受けるも、恐怖のあまり走り去ってしまった大学生の籬翔太。翌日、一人の老女の命を奪ってしまったことを知る。自分の未来、家族の幸せ、恋人の笑顔ーー。失うものの大きさに、罪から目をそらし続ける翔太に下されたのは、懲役四年を超える実刑だった。一方、被害者の夫である法輪二三久は、“ある思い”を胸に翔太の出所を待ち続けていた。 プロローグ 第一章 第二章 第三章 エピローグ
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(無題)
帰りの電車の中で読んでたんだけどびっくりするほど泣いてしまった。マスクがびしょびしょ… 大学生の籬(まがき)翔太は、バイト後、友人と酒を飲んでから家に帰る。その後、彼女の栗山綾香からの「今すぐに会いに来てくれなければ別れる」をみて、雨の中車で会いに行こうとする。その結果信号無視で81歳の法輪(みのわ)君子をはね、人にぶつかったことに気づいていながら恐怖でアクセルを踏み続け、200m引きずって殺してしまう。君子の叫び声が頭から離れないまま一旦はコインパーキングに車を停め帰宅し、事件を隠そうとするも、結局あっさり警察に捕まり、裁判で懲役4年10ヶ月を言い渡される。 この本のメインは、懲役を終えた翔太がその後どう生きたか、というところだ。翔太は裁判で「犬か猫だと思った」と供述し、人だと認識していたことを認めなかった。私は、その罪を認めない姿勢を貫く限り、翔太は(物語的に)幸せになれるはずがないのだから、どこかで天罰がくだるのかなと思っていた。しかしそうではなく、(父親の死などはあるが)、この話の焦点は「罪を認められないが故に罪悪感に苛まれ続ける苦しみ」なのだと気づき衝撃を受けた。結局翔太は終盤、君子の夫である二三久の前で罪を告白することになるのだが、息子の昌輝が述べているように、この事実を裁判で告白していたとしても、翔太の実刑は大して変わらなかったはずなのだ。(彼の供述は怪しいとみなされているため) だから、認める認めないは彼の心の問題であって、翔太のもつ弱さ故の苦しさが克明に描写されているのがこの小説なのだと思う。 「老女を車で200m引きずって死なせた」 この文字だけみれば、自分がそんなことするわけない、万が一そんな事故を起こしたとしても、非を素直に認めるだろうと思う。だが、この本を読んでいると、一瞬で判断しなければならない状況に陥ったとき、自分は果たして保身に走らずに済むのか、自信がなくなる。将来や家族のことが頭をよぎり、嘘をついてしまう気持ちは、痛いほどよくわかる。誰でも罪を犯す可能性はあるし、一方で罪人がすべて悪人とは限らない。普通の優しさをもった普通の人である翔太の弱さは私の弱さでもあって、だからこそここまで感情移入できるのだと思う。
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