なぜヒトだけが老いるのか

生物学的視点から老いを考えるという書籍。 著者の方は無神論者であり、かつ、今現在生命がこのようになっているのはたまたまこのようである方が生き延びやすかったから、という、ある意味徹底した科学生物史観です。 ということで、老いがあるのも偶然（生物学的必然）であり、これは子育てに時間と手間がかかる人間特有のものなのだという論でした。基本的に人間賛美的というか、生にたいして肯定的な見方。老いに対しても、心情的に死を超越できる年齢が来ることなどを上げて、老いの良い側面を挙げています。また、死自体が生物学的な必然、進化のために必要なものなので、死は利他的であるとも（この点は面白かったです）。 ただ、全般的に現在の価値観に迎合的すぎる（男女平等など）、かつ「全ては偶然にすぎない（生物学的必然）」とした時にこぼれおちるもに対する考察が不十分ではないかと思います。 著者の考え方で言うと、今現在、人間がこのようであることは進化の必然なので、例えば差別、暴力、飢餓、貧困もまたただの偶然であり、また、心が弱い、体が弱いのも淘汰の必然になら、悪いことではなくなります。しかし、著者の掲げるような人間愛？はこれの対極にあるもので、これらはどう説明（生物学的に）するのだろうかという疑問がわきあがります。 それから、「動物は老いる前に死ぬ。人間は栄養的に充足して天敵がいなくなったから、おいる余裕ができた」と書いてあって、その後いろいろ人間人間老いがある理由書いてるんだけど、むしろ理由は最初のそれだけでは？と思いました。 動物も、人間と同じ環境になれば死亡率が減り、老いるでしょ・・・。そこら辺もなんかよく分からずじまい。 結局、著者の人間的信条は分かったのですが、いろいろもやもやするところが残った感じでした。

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