
抱擁、あるいはライスには塩を 上
集英社文庫(日本)
江國 香織
2014年1月17日
集英社
792円(税込)
小説・エッセイ / 文庫
東京・神谷町の洋館に三世代で暮らす柳島家。子供たちを学校にやらないという教育方針だが、四人の子供のうち、二人が父か母が違うなど、様々な事情を抱えていた。風変わりな一族の愛と秘密を描く傑作長編。
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いろんな形
港区神谷町、ロシア大使館など各国大使館が集まり、東京タワーが間近にそびえる界隈に暮らす、柳島一家の物語。大正時代に建てられた築70年以上の屋敷からして、広壮かつ重厚、砂利の敷かれたエントランスから入ってきた客は皆、美術館と見まがうだろう。広大な庭に、中にはたくさんの部屋があり、暖炉やステンドグラスがあり、図書室まである洋館だ。おじいさまにおばあさま(ロシア人)、お父さま、お母さま、叔母様、叔父様、望、光一、陸子、卯月。三世帯が住む大きな洋館だ。 そこに住まう人々は、ちょっと変わった生活をしていた。憲法に定められた義務教育というのは、9年間学校に行く権利ではない。子どもには何の義務もない。あるのは教育を受ける必要と自由と権利だけであり、子どもにそれを与えることが、親に義務付けられているに過ぎない。そうであるならば、家庭で勉強させればいい。という両親の脅威浮く方針のもと、こどもたちは家庭教師の先生を付けられかなり厳しく教育されていた。小学六年生で、かなり優秀な高校一年生のレベル。誰も学校にいかず、大学へは「男子は東大、女子はお茶の水女子大」へと決められていた。試験に通れば、それまで学校に行かなくても大学に行けるのだ。行きたければ。 陸子は図書室で本を読むのが好きで、卯月は庭を探検し駆け回るのが好き、光一にぃは部屋でクラシックを聴くのが好き。彼らの世界は家の中ですべて完結していた。ある日を境にするまでは。 「おもしろい提案だよ。小学校に通うというのはどうかな」 あまりにも突然の父親の提案に、卯月、陸子、光一は、行きたくないと反発した。 「やってみて、どうしても嫌ならやめればいい、でもやってもみずに決めつけるのはよさなくちゃいけない」 行きたくない。。 「みじめなニジンスキー」 「かわいそうなアレクセイエフ」 これは、私たち家族にだけ通じる言い回しで、かわいそうに、という意味。 結局学校へ行くことになったのだが、その環境の違いに三人は困惑してしまう。まず清潔でないこと。空気がどんよりと悪い。そこにいる子どもたちは、数人は見るからに愚鈍であり、数人は見るからに凶暴であり、残りは落ち着きのなさと不躾な好奇心でじろじろと見てくる。そして先生の言うことをほとんどだれも聞いていない。 わたしたちはきちんと言葉を使って意思を伝えるように徹底的にしつけられていた。だけれども彼らには私たちの言葉は通じない。小学校という場所はつまり、おそろしく不衛生で騒々しく、幼稚で乱暴な上に言葉が通じない場所、ほかならなかった。 毎日が戦いだった、戦って戦って、戦って戦って、、、 それでも学校を辞めたいと言わなかったのは、それが私たち三人の敗北ではなくて、家族の敗北であるように思えたから。子どもたちが外できちんとやれない、とすれば、親は無論悲しみ、自分たちの責任であるかのように感じるだろうから。 だから、戦って戦って、、、戦った。 ある日、家の大人たちが授業参観に来た。 その二週間後に、私たちは三人とも学校を辞めた。もういかなくていいと言われたのだ。 たった三ケ月間の学校生活。短かったけれども、それぞれ三人に多大なる影響力を与えた。あまりいい方向でない影響を。 綺麗に見えていたものがただ物にしか見えなくなった。 兄はひきこもるようになった。 卯月は上品とは言えない言葉を吐くようになった。 どの家族が正解だなんて言えない。その家族がうまくやっていける方法をそれぞれの家族が見つけていくのだ。○○ちゃんのとこは普通じゃないよね変わってるよに変だね、とか子供は残酷だから口に出す。それで子供が傷つくのが嫌だから、皆普通であろうとする。普通ってなんだろう。普通じゃなくちゃいけないのだろうか。その家族が幸せで、ちゃんとした生活を送っていて、きちんと働いていて、皆が笑顔でほがらかで、周りとちょっと違うからといって、どうして否定されなきゃいけないんだ。 「抱擁」 日本人にはなじみが薄い習慣だけれども、愛情表現の一種。 「ライスには塩を」 それは、その家庭ごとに自由があるということ。 「抱擁、あるいはライスには塩を」 とは 「愛情と自由を」 という意味なのだろう。おなじ環境の家庭など存在しない。 柳島家はまた静かに家を中心に動き出し、歴史は動き、皆大なり小なり秘密を抱えながら大人になり、家から去るもの、家にとどまるもの、それぞれがそれぞれの道を進んでいきます。あるいは過去の叔母様や叔父様のや祖母の物語も紐解かれていきます。異国情緒あふれる文章のなかで、目の前に情景が自然と浮かんでくる素晴らしさ。深い愛情や悲しみ、葛藤、諦め、たくさんの感情が渦巻いて、本をめくる手を止めてはくれないでしょう。それがあなたの想像した彼・彼女の未来ではなくても、きっとストンと腑に落ちる瞬間があるでしょう。誰もが幸せになってほしいと願うでしょう。 江國香織さんの作品は何冊か読んでいますが、たぶんこの本が一番良かったです。たくさんの章に分かれていますが、わたしは、子どもたちが子たちのままの章が一番好きです。
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