青のフェルマータ
集英社文庫
村山由佳
2000年1月31日
集英社
502円(税込)
小説・エッセイ
両親の不和、離婚から言葉を失った里緒は、治療に効果的だというイルカとのふれあいを求めて、オーストラリアの島にやってきた。研究所のイルカの世話を手伝って暮らす彼女に島に住む老チェリストJBが贈る「フェルマータ・イン・ブルー」の曲。美しいその旋律が夜明けの海に響いたとき、海のかなたから野生のイルカが現れてー。心に傷を持つ人々が織りなすイノセントでピュアな愛の物語。
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海が好きでダイビング好き、チェロ好きの私にはたまらない小説である。その上、うら若い女性が年寄りに恋するのだから、我が身に引き当てて思わずほくそ笑んでしまう。 高校生といえば、多感な時期である。少女から女へと変貌を遂げようとするときに最も身近な同性、母親が父以外の男とセックスしていると知ったら、どう反応すべきか戸惑って当然である。男との関係が結婚前からだと知った父親は「この子の父親は誰なんだ」と激しく妻を責める。その妻は「父親に告げ口した」と今度は娘を責める。両親の離婚の原因は自分にある、と娘の里緒は自分を追い詰め、その結果声を失ってしまった。 精神面で不安定な母親はやがて入院。父親に引き取られた里緒だったが、失った声を再び取り戻すべく父親は、セラピー効果が高いと言われるイルカの研究所へと連れていくのだった。 世界最大の珊瑚礁・グレートバリアリーフの中の島にその研究所があった。そこで飼育されていたイルカは、最早人の手から餌を与えられなければ、生きていけない個体であった。そこで理緒は自由を手に入れた。海と野生のイルカとのふれあいである。解き放たれた精神の自由が何をもたらすかは明白である。 師への思慕の念がいつしか恋愛感情へと変化するのは、世の常だ。理屈ではなく、心の奥深くから発した情念が状況を変えるだけのエネルギーを秘めているのを発見できるラストであった。
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何度も読み返したくなる一冊
村山由佳『青のフェルマータ』 青い空、青い海、真っ白な砂浜、寄せては返す波音の狭間に聴こえてくる柔らかなチェロの音色に誘われて、イルカが宙を舞う。心に傷を持つ主人公の再生が美しい文章と世界観で綴られている。 息苦しくなるほどの透明で繊細なグランブルーの世界。
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