終わらざる夏(下)

浅田次郎

2010年7月31日

集英社

1,870円(税込)

小説・エッセイ

できることはもう何もない。戦場を走るほかには。たとえそこが、まやかしの戦場でも。美しい島で、あの夏、何が起きたのかー。何を信じ、何を守るー。人間の本質に迫る戦争巨編、堂々完結。

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(無題)

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3.3 2018年01月29日

占守島に上陸した片岡に参謀である吉江少佐は重大な告白をする。 「手の施しようがありません。日本はこの戦争に負けます」 「終戦となれば、敵の軍使がやって来ます。想像するに無念ではありますが、敵との和平交渉には、あなたの通訳としての能力が必要なんです」と。 「日本は負ける」「戦争は終わる」敗戦後に武装解除を目的に上陸して来るであろうアメリカ軍との交渉を任された片岡であった。「戦争は終わるんだ。これで帰れる」と、安堵する。 片岡の息子「譲」は終戦の日の15日に赤紙が来て入営する予定だった、やくざの男に助けられる。 やくざ「日本が敗けて悔しいか?」 譲「悔しいです」 やくざ「敗けてくやしいなんて気持ちな、きょう限り忘れちまいな」 譲「どうしてですか?」 やくざ「二度と戦争はするな。戦争に勝ち敗けもあるもんか。戦争する奴はみんなが敗けだ。大人たちは勝手に戦争をしちまったが、このざまをよく覚えておいて、おめえらは二度と戦争をするんじゃねぇぞ。一生戦争をしないで畳の上で死ねるなら、その時が勝ちだ」 アリューシャン列島に駐屯しているアメリカ軍が上陸する前に武装解除しようとの声に、鬼熊は反対する。「武装解除はいつでもできます」「アメリカ軍ではなくてソ連が攻めてこないとは限りません」 ソ連は広島の原爆投下を見て8日に不可侵条約を破棄して、宣戦布告をしている。 そして、ソ連は二個大隊を集結させ、占守島に砲撃を行う。 「ソ連の砲撃は、ふざけ半分の砲撃ではありません。米軍の軍使が来着する前に、武力で制圧したいのでしょう。そのためには、日本軍が降伏を潔しとせずに戦端を開き、自国はやむなく応戦したと云う筋書きが欲しいのです」と。 8月18日、ソ連は占守島に上陸する。 応戦する日本軍。ありったけの力でソ連を追い帰し、完膚なきまで叩きのめす。 完全勝利のはずが、周りの島々を奪い取ったソ連に占守島を明け渡す。 ソ連は、千島列島がアメリカ領になる事を避けたかった。太平洋に出られなくなる恐れが一番怖かったのだ。 軍使として最前線にいた片岡の運命は。 勇敢に戦った勇士は捕虜となりシベリアに連行された。 シベリアで捕虜となった日本人を懸命に治療していた菊池医師は、終戦にも関わらず攻めてきたソ連の理屈を聞いてびっくりする。 「占守島(ロシア名:クリル)で三千人のソビエト人が殺された。戦争が終わっていたのに。これは犯罪です。だからあなたたちは働く。死んでも働く。あたりまえです。」と。 わが耳を疑った菊池医師は思った。 ソ連は、いったい何のために、こんな理屈をつけるのだろう。終わったはずの戦いを蒸し返したのはソ連軍で、日本軍はやむなく応戦したのだ。そして皮肉なことに降参した軍隊が敵を圧倒してしまった。 北海道を占領するソ連の野望は頓挫した。占守島で死力を尽くしてソ連の武力占領を阻んだからだ。大きな犠牲の上に、いまの平和が築かれていることを痛感する。 チョット待て、ほんとうに平和なのであろうか。北方四島が帰るまで、真の平和はない。 浅田次郎は、ソ連の参戦と占守島攻撃、およびシベリアでの日本兵の扱いがいかに理不尽なものであったかをしっかりと描くとともに、戦争には真の勝者などいないということをしっかりと発信しています。

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