月は怒らない

男という阿呆な生き物と、束縛を嫌い、個としての存在を主張するひとりの女。個を主張する割に女は他者からの愛で自分の精神安定を得る。男女のもつれの末、それぞれが「まっとうな人間」になるべく努力する姿勢を描く。 短期記憶障害の老人（師匠）との禅問答が著者の協調したかった部分と推察。筆者の持論「死んだら土塊」「人の生に意味はない」が本作にも登場。 日本古来の恥という概念に改めて痛み入る（武士道の概念だったっけ？）。 三谷恭子：幼少期虐待か何か、非常に辛い状況に慢性的に置かれる。逃避として空ばかり見ていた。月は常に変わらず、自分を見守っていてくれることに気づく。月に救いを求め月を見続けることで自然と「月観」状態へ。月観を共有できる「ちょっと人間として足りないヒト」が恭子に吸い寄せられていく。恭子を月になぞらえたタイトルかと推察したが、怒らないのは本物の月のことだった。 ---- 「名こそ惜しけれ」自分という名の存在にかけて恥と感じる行動や、秘境と思える振る舞い、薄汚いうそはついてはいけない。（p.172） 「どんなに近い存在になっても、気持ち的に寄りかかってきたりしない。自分は自分、私は私。私と自分を同一視しない。」（p.184） 相手が好きなのではない。相手というフィルターを通して自分が好きなだけなのだ。（p.197） 人のせいにしちゃ、いかんじゃろ。ヒトに起こることは、悪いこともいいことも含めて、みんなその当人のせいぜよ。（p.205） 相手に対し、自分に都合の良い将来を夢想するのはそれぞれの勝手だろう。だが、それを相手に期待し始めた時点で、何かがおかしくなる。ズレていく。（p.284） 止観。

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