緋の天空
葉室麟
2014年8月31日
集英社
1,760円(税込)
小説・エッセイ
父・藤原不比等の願いが込められたその名を胸に、一人の少女が歩みだす。朝廷の権力争い、相次ぐ災害や疫病…。混迷を乗り越え、夫・聖武天皇を支えて国と民を照らす大仏の建立を目指す。光明皇后、その生涯が鮮やかに蘇る渾身の歴史長編。
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(無題)
第45代・聖武天皇の皇后・光明子の一代記である。聖武天皇と言えば、東大寺の大仏を建立したことで知られる。実際のところは、光明皇后の進言に従ったもののようだ。 現代の私たちにとって、仏教との縁といえば、初詣や葬儀・法事であろう。あるいは、有名寺社への観光であろうか。ところが奈良時代の日本仏教は、鎮護国家の役割を担っていたのである。心の安らぎと言った精神面ではなく、国家の安泰や国民生活の安寧を保証する実利的先端技術と位置付けられていたのだった。このため、仏教は国家の厚い庇護下にあり、僧侶も国家公務員として身分が保障されていた。 他方この時代に我が国は律令国家・天皇中心の専制国家・中央集権を目指していたのだった。我が国初の本格的律令編纂に中心的な役割を果たしたのが藤原不比等であった。不比等は光明子の父親である。 また、この時代は天平文化が花ひらいた華やかな時代であったが、その反面では政変・かんばつ・飢饉・凶作・大地震・天然痘の大流行などが相次ぎ、惨憺たる時代でもあったのだ。だからこそ、仏教への帰依心が強かったとも言えよう。ことに光明皇后は、貧しい人に施しをするための施設「悲田院」や医療施設である「施薬院」を設置して慈善事業を行なったことで知られる。
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