アンジュと頭獅王

ヒグチユウコの絵の表紙に惹かれて隣市の図書館で『アンジュと頭獅王』を借りた。この話は森鴎外の『山椒太夫』や童話の『安寿姫と厨子王丸』で有名だが、調べるとそれらの元は説教節の「さんせう太夫」だとわかった。それも読んでみたくなって調べているうちに、以前聴いていたNHKのラジオ番組「飛ぶ教室」によく出ていた伊藤比呂美の『新訳 説教節　小栗判官・しんとく丸・山椒太夫』という本があることを知った。馴染みの作家でもあるし、現代語訳しかも新訳ならうってつけだと思って、検索したら市内の図書館の一番遠い分室(自転車で片道１時間かかる)にあったので近くの分室に取り寄せて借りて読み始めた。ただ、「山椒太夫」は最後に収録されているので、読めるのはだいぶ先になりそうだ。また、森鴎外の『山椒太夫』も読みたいと思っていたところ、その近くの分室で「スラよみ！日本文学名作シリーズ」の『山椒太夫』を見つけた。さっき、この本のことを検索していて10月18日に出たばかりだと知った。この本もそのうち読もうと思っている。 私は家では音読で読書をするのだが、『アンジュと頭獅王』は決まり文句の多用、七五調的なリズミカルな文章が音読で読んでいて心地よかった。千年の時が経ったとかいうのを漠然と読んでいたら、現代(しかも令和らしい)が舞台となり戸惑った。古典を読んでいるような感覚でいたからだ。そのうち、あっそうだ、これは古典作品ではなく吉田修一の小説だ、と気づいた。千年経ったということはどういうことなのだろう。不老不死なのか、何回か生まれ変わって千年経ったということか。実際、アンジュについては前世のしのぶの話が出てきた。 伊藤比呂美の本のタイトルの「しんとく丸」を「しんとくまる」と打った時に、変換候補に「身毒丸」が出てきた。あの藤原竜也の舞台『身毒丸』は説教節の「しんとく丸」が元になっている？、と思って調べたところ、折口信夫の小説に『身毒丸』という作品があって、やはりもとは説教節の「しんとく丸」らしい。折口信夫の『身毒丸』も伊藤比呂美訳の「しんとく丸」を読んだあとに読んでみたくなった。『アンジュと頭獅王』を図書館で借りたことで読みたい本が次々と派生していく。読めるかどうかは別にして、こういうところが読書の面白さ・醍醐味と言える。また、アンジュの前世のしのぶと折口信夫が同じ名前なのは偶然だろうか。しのぶの話は説教節にあるのか。それとも吉田修一が同じ説教節が元の小説を書いた折口信夫から発想を得てアンジュの前世の名前をしのぶにしたのか。

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