
ワンダフル・ワールド
新潮文庫
村山 由佳
2018年10月27日
新潮社
539円(税込)
小説・エッセイ / 文庫
アロマオイルを纏った肌をぶつけ合い、のぼり立つ匂い。調香師との情事は、私に長い愛人生活を終わらせる予感を抱かせた。あの光景を目にするまでは──(「アンビバレンス」)。年上の人妻経営者に持ちかけられた三か月間の恋人契約。俺に抱かれ、女の喜びを感じると話していた彼女は、なぜ突然いなくなったのだろう(「バタフライ」)。記憶と熱を一瞬で呼び覚ます特別な香り。五編の恋愛小説集。
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(無題)
サッチモのWhat a Wonderful Worldを聞くたびに「この人は何て人柄の良い人なんだろう」との思いを新たにする。人が人と殺しあったり、破壊の限りを尽くす戦火の彼方に植物や自然、そして人々の営みを見いだし、讃える。人格のフィルターを通すと、戦争も違って見えるという事だ。人と人とが織りなす世界には、魑魅魍魎が渦巻いているのが現実である。愛があればそれと同量の憎しみや無関心が存在する。それらに振り回されるのではなく、「人間、それほど捨てたもんでもないよ」との作者のつぶやきが聴こえてきそうな作品である。 本作には「アンビバレンス」「オー・ヴェルト」「バタフライ」「サンサーラ」「TSUNAMI」の5編の短編が収録されている。いずれも男女の出会いと別れが描かれるが、そこには一つの共通したアイテムが忍び込まされている。香り或いは匂いである。香水やアロマオイルのほか、石鹸やシャンプーの匂い、インコの匂い、プールのカルキ臭、白神山地の緑いっぱいの匂い、骨董店店主の麝香や沈香の香り、老いた猫の排泄物の強烈なにおいである。
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