
春になったら莓を摘みに
新潮文庫 新潮文庫
梨木 香歩
2006年3月31日
新潮社
572円(税込)
小説・エッセイ
「理解はできないが、受け容れる」それがウェスト夫人の生き方だった。「私」が学生時代を過ごした英国の下宿には、女主人ウェスト夫人と、さまざまな人種や考え方の住人たちが暮らしていた。ウェスト夫人の強靭な博愛精神と、時代に左右されない生き方に触れて、「私」は日常を深く生き抜くということを、さらに自分に問い続けるー物語の生れる場所からの、著者初めてのエッセイ。
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(無題)
イギリスに関するエッセイは吉田健一をもって嚆矢とするだろう。僕も英国ものは好きだったのでマークス寿子、リンボー先生、井形慶子、高尾慶子と読み進め、今回初めて梨木に挑戦するところとなった。 本書は、著者が英国に留学していた頃の暮らしぶりや、イギリスを再訪した時のことを綴ったエッセイである。イングランドの空気が十分に匂う作品であるが、それよりも下宿の女主人・ウェスト夫人の人柄が描きこまれており、それが本書の一番の味となっている。ウェスト夫人はクエーカー教徒で、面倒だと分かっていてもそれを引き受けてしまう人だ。犯罪歴のある人、考えが違う人も下宿人として受け入れる。近所の嫌われ者も見捨てることができない。そこでぶつかったり、時によっては不快な思いをしたり、傷ついたりする。それでも、ウェスト夫人は自分のやり方を変えることはしないのだ。9.11以降、世界は変わったがウエスト夫人の日常に変化はない。だから、最近届いた夫人からの手紙には春になったら苺を摘みにいきましょうとあった。 このタイトルから本書の内容を女性向けのファッション性溢れたものと予想すれば、期待は裏切られる。特に後半になると、骨太なテーマにがっぷりと取り組んでいる。一例を挙げれば人種差別である。西欧社会で日本人は差別される側にあるが、差別する方にも微妙な思いが渦巻くもののようだ。以下は著者のカナダにおける体験である。 列車旅行で著者は最高級の3ベットの個室を予約した。しかし、列車の車掌はなかなか個室に案内しようとはしなかった。そこには軽い東洋人蔑視の気配を感じた。彼女はその時、どう思ったのだろうか。料金を払っているのに、との憤慨だろうか、あるいは人種差別の現実へのやり切れなさ、屈辱感だろうか。彼女は車掌にこう伝えた。「あなたが私の言うことを信じてくださらなかった、あの時。私は本当に悲しかった」。それを聞いた車掌は恥ずかしさの余り、みるみるうちに顔を真っ赤に染めたという。 著者はその心理を、敗戦国のくせに経済大国にのし上がった国民への嫉妬と黄色人種への嫌悪の混ざったコンプレックスで、それを声だかに攻撃するのは白色人種とその文化への劣等感である、と分析する。
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