奇跡の人
新潮文庫
真保裕一
2000年2月29日
新潮社
817円(税込)
小説・エッセイ / 文庫
31歳の相馬克己は、交通事故で一度は脳死判定をされかかりながら命をとりとめ、他の入院患者から「奇跡の人」と呼ばれている。しかし彼は事故以前の記憶を全く失っていた。8年間のリハビリ生活を終えて退院し、亡き母の残した家にひとり帰った克己は、消えた過去を探す旅へと出る。そこで待ち受けていたのは残酷な事実だったのだが…。静かな感動を生む「自分探し」ミステリー。
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もこりゅう
中学生並みの知能を身につけた31歳の相馬克己が退院することから物語は動き出す。
久々に読んだ真保裕一の作品であったが、読めば読むほど悲しくなり、やるせなくなり、イライラする、なんとも後味の悪い作品だ。 8年前、瀕死の事故にあった主人公の相馬克己。後遺症から記憶をすべて失った、という設定。彼の記憶の失い方は、よくある「私はだれ?ここはどこ?」という状態よりもさらに上を行く失い方。このよくある記憶の失い方は、意味記憶は残っているものの、エピソード記憶を失ってしまったというものである。しかしこの主人公は、そのエピソード記憶に加えて、意味記憶、プライミング記憶、さらに手続き記憶までも忘れてしまったのだ。簡単にいうと赤ちゃんと同じ状態まで戻ってしまったということである。8年間病院で過ごして、中学生並みの知能を身につけた31歳の相馬克己が退院することから物語は動き出す。 この作品は前半、後半と分かれており、前半は病院から退院した主人公の、社会で生きるつらさ、障害者(なのかな?)に対する人間のいやらしさ、そして新たな出会いなどが描かれている。読んでいてなかなか興味深く、主人公の幼い目線による新鮮さなどが面白い。しかし後半になると、それまで伏線として扱われていた、事故が起こる前の自分探しとなる。ここから一転、物語はなんだかいやな方へ向かっていく。あまりにも過去にこだわりすぎる主人公にイライラが募るばかりの後半。人を真剣に愛したことがないおいらが読んでるから、そんな気持ちになるのかなぁ、というさびしい感想も出てしまう。 「主人公の過去」が謎となっている。この謎解きも重要ポイントではあるのだが、知ってしまうとそれはそれで、「あ、そう。。」レベル。主人公がその謎に執着する割には、あまりにも予想がつきすぎるものであり、ミステリとしてはちょいとお粗末。 物語は、母の視点である病状を記録したノートによる語りから始まり、間に同様のものを挟みつつ、同じく母の視点であるノートによる語りで終わる。最後の母のエピローグが救いであるようなイメージで書いてあるが、何も救われない印象であることは否めない。 で、今ちょっと思ったのだが、間に入る母の語りが、実はエピローグの母の語りであったなら、なかなか面白いかもしれない。ちょいと読み直してみる??あと、ドラマ化もしているんだけど、山崎まさよし、結構ハマってる気がする。ドラマで後半部分はどんな風になっているか興味はあるなぁ。
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