
号泣する準備はできていた
新潮文庫
江國香織
2006年6月28日
新潮社
693円(税込)
小説・エッセイ / 文庫
私はたぶん泣きだすべきだったのだ。身も心もみちたりていた恋が終わり、淋しさのあまりねじ切れてしまいそうだったのだからー。濃密な恋がそこなわれていく悲しみを描く表題作のほか、17歳のほろ苦い初デートの思い出を綴った「じゃこじゃこのビスケット」など全12篇。号泣するほどの悲しみが不意におとずれても、きっと大丈夫、切り抜けられる…。そう囁いてくれる直木賞受賞短篇集。
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(無題)
短編集。それもひとつひとつがとても短く、どれも20ページくらい。 難解ではないがきれいな文章で綴られる様々な恋愛の話。劇的な展開は何ひとつなく、誰かが救われることもない。島本理生さんみたいに胸を締め付けられるということもなく、正直よく理解できないままに話が終わってしまうという印象。大人の恋愛なのかな? 直木賞か…芥川賞って言われたほうがむしろ納得できるな。 とりあえずわたしにはまだ早い!と思ったので☆3 以下あらすじ↓ 「前進、もしくは前進のように思われるもの」 夫が猫を勝手に捨てたことに固執する弥生 「じゃこじゃこのビスケット」 十七歳のとき、寛人とドライブをした、何もかも楽しくなかったその日の回想 「熱帯夜」 秋美との同性愛。行き止まりにいる私たち 「煙草配りガール」 ホテルのバーで話す、私と夫、百合と明彦 結婚への閉塞感 「溝」 夫の家族を好きになれない妻、隣の家のウエットスーツ 「こまつま」 デパートが大好きな主婦、美代子 理想を演技する 「洋一も来られれば良かったのにね」 姑と年一回旅行へ行くなつめ ルイとの不倫が忘れられない 「住宅地」 住宅地におけるそれぞれの生活 トラックドライバー常雄、ピアノ講師真理子、孫にお弁当を届けられない老婆 「どこでもない場所」 私と龍子、バーの店主敏也さんととある男性の4人で旅先での恋について語らう 「手」 乾いた葉っぱみたいな手 レイコを訪ねるたける 「号泣する準備はできていた」 文乃と隆志、木のない電飾の夢 「そこなう」 独身となった新村さんと旅館へ行くみちる すべてが完璧であるはずなのにどうしようもなく孤独
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江國香織について
江國香織はほとんど読んだことがなかったので勝手にただのセンチメンタル小説でなんとなく本好きを謳いたい女の子が読む作家だと思ってた。 んー、違った。 私の好きな起承転結がはっきりしていて起伏があるストーリーでも話という話があるわけでもない。けど、共感性が非常に高い文章だと思った。日常的に過ごしていてわざわざ言葉にしたり説明したりしないけどなんとなく感じ取っていること。それをさまざまな境遇に置かれる女性陣の日常生活にしっかりと落とし込んでいる。そしてその女性陣は読者でもある私たちでもある。自己投影できるタイミングや隙間がいくらでもある。それが良いところだと思った。 ただ共感性があまりにも高すぎて息が詰まりそうになる場面も多々ある。話は無味乾燥としているのに、あまりにも人間くさくて読んでいる私が自己嫌悪に陥りそうになる。「こまつま」における主婦の美代子は平凡な主婦。平凡な主婦なりに自分は孤独とは無縁なんだぞってことを自負にして生きている。恐ろしい。この作品生きることを営むことに嫌気差してくる。孤独と人生とどうやって折り合いをつけるか。そういうことが描かれている。
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(無題)
恋に破れた時、人は哲学者になる。僕は失恋はしたけれども、哲学者にはなり損ねた。しかし、それでもひとつの惹句を得ることには成功した。それは、男は正邪を人生における価値判断の基準とし、女は好悪あるいは損得を基準とする、というものだった。この小説には、僕の理解の埒外にある女性が数多く登場する。どのような女性であるかを説明することは、僕の能力を超えるので本書で作家が形容している言葉を借りることにしよう。 「これは名誉の問題なのよ」と自己主張する女。自信のある、満ち足りた女に見えるように、背筋を伸ばし、頭を上げて足早に歩くことを習慣にしている女。肉体関係を持つ時、相手が処女だと男の子は怖がると思っていたから、本当に好きな男の人と出会う前にその人のために何とかして処女を捨てておかなければならない、と考える女。私たちは歯が抜けて、髪が抜けても一緒にスープをすすっていたいの、と言う女。犬も飼いたいし、子供も孫も欲しいの、という女。悪いけど、私あなたの妹が嫌いよ、とはっきり言う女。おろかで孤独な若い娘と、暇で孤独な主婦達と自分とは全く違うと胸を張る女。独身女のように自由で、既婚女のように孤独な女。 午前8時の太陽が生きとし生けるもの全てに惜しみなく生のエネルギーを降り注ぐ輝きに満ちた存在であったとしても、それが中天を越えやがて午後3時になれば、黄昏を思わせる弱々しい存在へと変貌を遂げるのは、自然の摂理である。地球という惑星の上で生かされる人間の営みのひとつ、恋愛にもそんなリズムがあってもおかしくはない。本書に収録された12の短い物語の恋愛時間が、午後3時に設定されているのが共通しているのである。そこにあるのは燃え立つ生のエネルギーや歓喜の叫びではない。終焉を間近に控えた寂しさと、それを静かに受け入れる諦念である。 作者は本書について「たとえば悲しみを通過するとき、それがどんなにふいうちの悲しみであろうと、その人には、たぶん、号泣する準備ができていた。喪失するためには所有が必要で、すくなくとも確かにここにあったと疑いもなく思える心持ちが必要です。」と述べている。そんな作者の言葉通りに悲しみに遭遇した時、登場人物が号泣するかといえば、そんなことは一切なく、静かに乗り越えているかのようにみえる。彼らの人生は、確実に変わってしまっているのだが、そのことによって日常の連続性が途切れる事などあるはずがない。昨日と同じ日常が今日も明日も描かれる。寂しさや哀しさ、ほんの少しの嬉しさの繰り返しに女性読者は「ああ、あるある。そうゆことあるよね。分かる分かる」と作者の思いを共有するのだと思われる。
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Readeeユーザー
(無題)
☆江國香織「号泣する準備はできていた」直木賞受賞・短編集。かみ合わない、不毛な人間関係のオンパレード。いいことばかりでない様々な人間を描き出すところに意味はあるのだろうが、12編立て続けだとさすがに食傷気味。リアルな主婦の内面をシニカルに描いた「こまつま(こまねずみのように働く妻の意味)」あたりは嫌いではなかったのだけど…。
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