
ふがいない僕は空を見た
新潮文庫 新潮文庫
窪 美澄
2012年10月31日
新潮社
693円(税込)
小説・エッセイ / 文庫
高校一年の斉藤くんは、年上の主婦と週に何度かセックスしている。やがて、彼女への気持ちが性欲だけではなくなってきたことに気づくのだがーー。姑に不妊治療をせまられる女性。ぼけた祖母と二人で暮らす高校生。助産院を営みながら、女手一つで息子を育てる母親。それぞれが抱える生きることの痛みと喜びを鮮やかに写し取った連作長編。R-18文学賞大賞、山本周五郎賞W受賞作。
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(無題)
目次を見て、短編集なのかあと思って読み進めていたので、連作長編だと分かったときの興奮がすごかった。はじめの「ミクマリ」に出てきた齋藤、あんず、松永、福田、齋藤の母、と、それぞれの登場人物の視点から物語は展開していく。 ものすごく読みやすい文章だなと感じていたのだけれど、重松清さんの解説で腑に落ちた。聴覚、視覚、描写の視点の動かし方が巧みかつ自然で、簡単に情景が思い描けるのだ。 R−18文学賞大賞作品なのでさすがに過激描写も多いが、この本がすごいのは登場人物が生きているそのリアリティを極限まで引き出すためにR18描写が必要であったと素直に感じられるところだと思う。 齋藤、松永、福田は学力の低い、いわゆる底辺高校に通う1年生である。齋藤は助産院の息子であり、松永は東大生のちょっとずれた兄をもち、福田は貧乏な「団地」に住む。それぞれがなんらかの事情を抱え込んでいる。 例えば福田は同じく母子家庭であるのにあたたかい家庭で育ち貧乏でもない齋藤を妬ましく思っている。この「貧乏」の描き方が苦しいほどの現実感をもって迫ってくる。 齋藤はコスプレ姿の不倫現場がネットにばらまかれ部屋にひきこもってしまうのだが、福田は、齋藤の部屋に足繁く通い齋藤を気にかける親友でありながら、ばらまきの一役を担った人物でもあるのだ。これだけを知るとなぜ?となるが彼の家庭事情を知るとその骨身に染みるようなお金のなさが生む環境と照らし合わせ納得するしかなくなる。自分がいかに恵まれている環境にいるかふだんは気がつかないけれどこういった描写を読むと息苦しくなる。 登場人物はそれぞれ悩みを抱えていて、けっしてそれは小さいものでも見過ごせるものでもなく、さらに物語のなかでなんらかの救いが描かれるわけでもないのだけれど、それがかえって、彼らが生きているという確かな実感を感じさせてくれる。 とても心に残る面白い小説だった。作者のほかの話も読みたい。
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(無題)
以前から気になっていた窪美澄さんの一冊を。『ふがいない僕は空を見た』は、第24回山本周五郎賞、本の雑誌が選ぶ2010年度ベスト10の1位、2011年本屋大賞2位、女による女のためのR-18文学賞大賞受賞し、映画化もされた話題作です。 5編からなる連作長編で、助産師の息子・高校生の斎藤卓巳をはじめとして、彼を取り巻く別々の人物が主人公に据えられているので、各作品の中で同じ登場人物たちが違った視点から描き出されていくことになります。一作目の「ミクマリ」がR-18文学受賞作ということもあり、女性が書く「性」をメインにしている感じで読み始めましたが、編を重ねていくうちに、何の救いも用意されていないような生きづらい世の中を生きる人々の「生」が浮き彫りになっていくような作品だな、と印象が変わっていきました。行き場のない人生に翻弄される登場人物たちのオンパレードなのですが、全編を通して「出産」という「生」を真ん中に据えているところに、この物語を支える希望があるようにも思いました。 と言いながら、生まれることが必ずしも幸福とは言えない現実はあまりにも残酷です……。 その最たるものが、全登場人物の中で、最も追い詰められたところにいる高校生の福田と言えるかもしれません。父は自殺、母に見捨てられ、認知症で他者に迷惑をかけ続ける祖母の面倒を見ながら、貧困の中食べるものすらままならない福田。にもかかわらず、そんな彼が、極限状態にいる自分をそっちのけに、他人のために「いじわるな神さま」に祈る現実を、切なくまた哀しく受け止め、作者の人間への信頼を見たように感じました。 同時に映画も鑑賞。本と同様、やはり、窪田正孝さん演じる福田良太が気になって仕方がありませんでした。
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