傷
慶次郎縁側日記
新潮文庫
北原亜以子
2001年4月30日
新潮社
649円(税込)
小説・エッセイ / 文庫
空き巣稼業の伊太八は、「身内に迷惑を掛けない」というのがモットーだ。豊蔵から共謀を持ちかけられ、目的の瓦屋に忍び込んだはよかったが、何とそこは豊蔵の弟の家だった。自らの信条に反する仕事をさせられた挙げ句、あらぬ罪まで着せられてお尋ね者になってしまった伊太八ー彼の運命やいかに?元南町奉行所同心の隠居・森口慶次郎が人々の心を潤す、粋と人情のお江戸事件簿。
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(無題)
矢張り読み始めてしまいました。慶次郎縁側日記。これが第一巻です。イヤー、実に面白いですね。迫真の表現力です。定廻同心と言えば、今で言う警察官ですよね。愛する娘を手篭めにされて、それを苦にして自害した娘の無念を晴らすため、犯人を殺そうとする慶次郎です。これでは私怨になってしまいます。30年間の同心生活での慶次郎の信条は、事件の犯人を捕らえるのはもちろん、犯罪者を産まないことにありました。仏の慶次郎の異名の所以です。その慶次郎が娘が犯行の犠牲者になるに及んで、阿修羅のごとくなります。もう一つ、慶次郎の小物、辰吉との絆の強さは読者の心を打ちます。慶次郎の無念の気持ちを察して、慶次郎を犯罪者にさせてはならじと辰吉は身体を張って慶次郎の先回りをします。実は辰吉は、13年前、恋女房を殺した下手人を殺そうとしましたが、慶次郎に阻止されたいきさつがあったのです。そのことを指摘された慶次郎でしたが、慶次郎は「あの時は自分が間違っていた」というのでした。慶次郎はついに娘・三千代を手篭めにして死に追いやった常蔵を追い詰めました。下手人常蔵の生死を手中にした時、慶次郎の中でカチとスイッチが入ったように常蔵に対する殺意が遠のきました。 これが第一話の内容ですが、これでは縁側日記などと、のん気な題名とかけ離れていますね。シリアスなのは第一話だけで、第二話ではもう慶次郎は家督を養子の晃之助に譲り、隠居して山口屋の寮番をしています。そして、江戸人情噺が繰り広げられます。
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