風樹の剣
日向景一郎シリーズ 1
新潮文庫
北方 謙三
1996年11月29日
新潮社
825円(税込)
小説・エッセイ / 文庫
「父を斬れ。斬らねばおまえの生きる場所は、この世にはない」。謎めいた祖父の遺言を胸に、日向景一郎は流浪の旅に出た。手挟むは二尺六寸の古刀来国行。齢十八の青年剣士は赴く先々で道場を破り、生肉を啖い、遂には必殺剣法を体得。そして、宿命の父子対決の地、熊本へと辿り着くー。獣性を増しながら非情の極みへと向かう男の血塗られた生を描く、凄絶な剣豪小説シリーズ、第一弾。
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(無題)
ハードボイルドな剣豪小説って見事に成り立つんですね。主人公の剣豪は日向景一郎、18歳の青年である。作者の北方は、この青年に重い物を背負わせ、凄惨な青春を描き出すのである。日向流剣術の創始者で有る祖父は、景一郎に遺言を残す。それは「父を斬れ」。父親を倒さねば、景一郎の生きる世界はこの世に無い、と言う。こうして己の手で父を殺すべく景一郎の旅が始まる。 旅の前に景一郎の剣に触れておかねばなるまい。一言で彼の剣を語るならば、負けない剣である。剣を握るものにあって負けは即、死を意味する。逆に言えば生に執着するし、生死をかけた真剣勝負にあっては、臆病ですらある。現に初めて真剣を使った時、景一郎は泣き叫び、小便を漏らしていた。将監に言わせれば、日向流の真髄はそこにあり、一見だらしのないそんな景一郎に天性の才能を見出していたのだった。 もうひとつ、景一郎の剣の特徴は、一切の精神性を排除したところにある。景一郎はいかにも人生を理解したようなことを言う僧侶が嫌いであった。むしろ、己の中の野性を肯定し欲望のままに行動するのであった。人を切り、獣の肉を食い、女を犯し、また殺す景一郎の旅であるが、景一郎には逡巡がない。獣のように行動する己に一切の疑いを抱かない。 景一郎の旅は、父を切ることによって終わりとなるのか、それよりもまず、父を殺すことができるのか、父を倒すことによって自分の生きる世界が見えてくるとはどういうことなのか、深層心理学で父を殺すことは、エディプスコンプレックスを克服することを意味する。そんな視点で本書を読めば、景一郎の旅は「自分とは何者なのか」を見つける旅であり、それは終わりのない旅となること必定である。
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tokage09
剣豪小説の真髄
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