オオカミの護符

小倉 美惠子

2011年12月16日

新潮社

1,650円(税込)

人文・思想・社会

五〇世帯の村から七〇〇〇世帯が住む街へと変貌を遂げた、川崎市宮前区土橋。長年農業を営んできた著者の実家の古い土蔵で、護符がなにやら語りかけてくる。護符への素朴な興味は、謎を解く旅となり、いつしかそれは関東甲信の山々へー。都会の中に今もひっそりと息づく、山岳信仰の神秘の世界に触れる一冊。

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3.3 2018年01月26日

本書は、関東に広く見られるオオカミ信仰を取材した映像作家の手記と言っても差し支えないでしょう。本書が面白い本に仕上がっている最大の要因は、著者自らの故郷、川崎市宮前区土橋の生家の土蔵に貼られた護符に興味を持ち、御嶽山信仰へとアプローチして、やがてオオカミ信仰の全体像が明らかになって行く自然さにあります。 著者の家の土蔵に貼られていたお札には、黒い獣の上に、「武蔵国御嶽山」「大口真神」と記されていました。このお札は農家の守護神であり、山岳信仰と混交し代々守り継がれてきた信仰形態でした。現代ではその縁って来たるところは忘れさられ 、単なる因習や迷信、あるいは山岳修験と聞けばおどろおどろしい妖術を思い浮かべるところがありますね。ところが本書の著者は、何の先入観もないまま信仰の世界に飛び込み、体当たり取材しています。著者の純粋な好奇心とみずみずしい喜びが、読み手の心にストレートに響いてきます。著者が最も身近にある土地の生活史を丁寧に掘り起こした結果でした。 さて、大口真神と一体なんなのでしょうか。100年以上前の目撃情報を最後として、絶滅したとされるニホンオオカミであることが神官の口から明らかになります。オオカミは、作物を荒らすイノシシや鹿を退治する「益獣」として山の神と崇められたのでした。しかし、現代の私たちには、狼は家畜や人を襲う人間の敵であるとの思いがあり、「益獣」として崇めることには、いささか違和感があります。 本書では、なにごとかが強く主張されているわけではありません。また、研究者のフィールドワークでもありません。この本は代々一定の土地とともに生活を築いてきた人々と土地の記憶をたぐる旅の記録といえます。

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