ソロモンの偽証 第III部 法廷
宮部 みゆき
2012年10月31日
新潮社
1,980円(税込)
小説・エッセイ
事件の封印が次々と解かれていく。私たちは真実に一歩ずつ近づいているはずだ。けれど、何かがおかしい。とんでもないところへ誘き寄せられているのではないか。もしかしたら、この裁判は最初から全て、仕組まれていたー?一方、陪審員たちの間では、ある人物への不信感が募っていた。そして、最終日。最後の証人を召喚した時、私たちの法廷の、骨組みそのものが瓦解した。
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第三部は裁判の様相が息詰まる筆致で描かれています。その様子を覗く前に、少しばかりタイトルの意味を考えてみましょう。ソロモンは紀元前の古代イスラエルの王であり、知恵者の象徴とされている人物です。そのソロモンが偽証するという設定ですね。ソロモンとは誰を指すのか、どうして偽証をするのか、この疑問に対すら答えが最後まで明らかになりませんので気にかかるところです。偽証としてまず思い浮かぶのが、三宅樹理ですね。この法廷ドラマの根幹をなす大出俊次を告発する三宅樹理の嘘は、大出俊次のアリバイが成立することによって、あっけなく暴かれてしまいました。この時点で、三宅樹理はヒステリックで、女の浅知恵の感がありますので、賢者とは言えないでしょう。賢者といえば、この作品中で最も相応しいのは、神原和彦です。では、神原はどんな嘘をついていたのでしょうか。彼は自らを未必の故意による殺人犯だと語り始めます。この点を藤野検事は鋭く追求します 。弁護人の立場から一転して、検事側の証人となり柏木の死の真相を語り始めた神原に藤野検事は「あなたの証言は、被告人を弁護するための途方もない作り話ではありませんか」と迫ります。さらに「何の得にもならないのに、何故そんな証言をするのか」とも。神原は「得ならあります。嘘から解放されます。謝る機会が生まれます」と述べるのでした。つまり、唯一の親友とも言うべき柏木を死に追いやった自らを未必の故意による殺人犯と証言をする神原が、ソロモンの偽証に当たるのではないか、というのが私の推論です。 もう一点、本作品の状況設定、とりわけ登場人物に不自然さを感じる事について触れておきたいと思います。有り体に言えば、登場人物が中学生にしてはあまりに優秀すぎます。若者であれば「ありえねー‼︎」と叫んでしまうほどです。中学3年生でこれほどの発想を持つことや厳密な論戦を戦わすことはあり得ません。ほとんど大学生以上のレベルでしょう。法廷戦術にしても、証人からの証言の引き出し方一つとっても、緻密に計算された裏付けがあり、陪審員への印象付けなどは、プロの検事、弁護士も顔負けです。それでは登場人物を大人に置き換えば済むかと言えば、そうは行きません。何故なら、本書が扱うテーマが生きる意味を問い、その結果自死を選ぶものだからです。この傷口を剥き出しにしたような、ナイーブな精神性のテーマに向き合うには、大人では余りに垢が付きすぎています。ですから、著者は無理を承知で中学生と設定したのでしょうが、小説の出来としては、そんな違和感を感じながらも読者を虚構の世界へ引きずりこむ筆力は図抜けており、素晴らしい出来に仕上がっております。
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(無題)
長い長い! 結末がちょっと物足りない、かな。
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