けさくしゃ
畠中 恵
2012年11月30日
新潮社
1,650円(税込)
小説・エッセイ
版元の山青堂です。超超超目利きな、今で言う編集者です。旗本のお殿様・高屋彦四郎様(通称彦さん)を戯作者にスカウトしたのは、このあたし。最初は渋っていたけど、彦さん、どんどん戯作の虜になっていきました。けど、人の心を強く動かすものには、お上が目をつけるのが世のならい。命をおびやかされるかもしれぬ。しかし、戯作を止められないのだ。なんて、かっこいいこと言ってる場合じゃありませんから、彦さん。はて、この顛末や如何に!?-お江戸の大ベストセラー作家の正体は、イケメン旗本だった!?「しゃばけ」シリーズ著者によるニューヒーロー誕生。
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(無題)
戯作者とは江戸後期の通俗小説家のことである。誰がって?本編の主人公・高屋彦四郎知久である。そう、名前からもわかる様に武士である。しかもれっきとした旗本だ。旗本は家康が幕府を開いた時に家禄が決まり、それが数百年にわたって代々引き継がれているのである。家禄のほかに幕府の役に就けばそれなりの報酬を得ることができる。だから誰もが猟官運動に走ることになる。何の役にも就いてない旗本は、小普請組に所属することになる。サラリーをもらって仕事をしないのだから、こんな気楽なことはない。いきおい暇を持て余すから、多くは趣味に走るところとなる。狂歌であったり戯作であったりするのだ。浅田次郎は「君は嘘をつくのが上手いから作家に向いている」と言われて小説家になったとか(これは本人が書いていたのだから本当のことなのだろう)。 彦さんをそう見込んだのが山青堂のタヌキおやじである。この二人の掛け合いが実に楽しい。さらに、惚けた愛嬌のある妻・勝子や中間の善太こと徒目付の滝川善治郎と言ったバイプレーヤーが絡んで実に騒々しくも楽しい話し運びとなる。 要は江戸小編ミステリーに作家や版元の事情をふんだんに盛り込んで、本好きにはたまらない味付けとなっている。しかも作者は、現実に起きた事件をもとにその男が紡ぐ話がいつの間にか現実世界に反映され、それがまた物語の世界に戻ってゆく、という作り方をしている。あちらとこちらを行ったり来たりしているうちに、いつしか読者はわけがわからなくなる。凝った構成である。
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