警官の血(上巻)
佐々木譲
2007年9月25日
新潮社
1,760円(税込)
小説・エッセイ
帝銀事件が世を騒がせた昭和23年。希望に満ちた安城清二の警察官人生が始まった。配属は上野警察署。戦災孤児、愚連隊、浮浪者、ヒロポン中毒。不可解な「男娼殺害事件」と「国鉄職員殺害事件」。ある夜、谷中の天王寺駐在所長だった清二は、跨線橋から転落死する。父の志を胸に、息子民雄も警察官の道を選ぶ。だが、命じられたのは北大過激派への潜入捜査だった。ブント、赤軍派、佐藤首相訪米阻止闘争、そして大菩薩峠事件ー。騒然たる世相と警察官人生の陰影を描く、大河小説の力作。
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もこりゅう
佐々木譲らしい重厚な歴史小説であり、警察小説である。
本作は「2008年版このミステリーがすごい!」で見事に第1位を獲得した、佐々木譲らしい重厚な歴史小説であり、警察小説である。 3代に渡り、警官人生を歩んだ安城家。親の清二の時代に起きた殺人事件の真相を根に据え、親(清二)、子(民雄)、孫(和也)、それぞれの警官人生を描いている。彼らが立ち会う事件、犯罪は、それぞれの時代背景によって性質をかえ、警官とは、正義とは、という葛藤も時代々々によって変わっていることがうかがえる。 清二の時代は戦後間もない時代であり、世の中全体が混沌としている。清二は23年組と後に呼ばれる大量採用で警官となる。このとき、香取、窪田、早瀬という同僚に出会う。上野公園の浮浪者、秋葉原のバラックなどの表現、その時代の風俗が伺える。そして起こる、男娼殺人事件。チラつく警察の影。後に起こる国鉄職員の殺人事件との関連性を疑う清二は独自に捜査する。1957年、谷中五重塔放火心中事件が発生。そのさなか、清二は死亡する。事件の真相まで後一歩のところでその真相と主人公は、子の民雄へと引き継がれる。民雄は清二の同僚であった3人の「おじさん」の協力もあり、高校を卒業、父の意思を継ぎ警察学校への進学を決意する。卒業の直前、民雄は北海道大学への進学を勧められる。表向きは対ソ要員としてのロシア語を修得するため、実際はそのとき高まりをみせていた学生運動のスパイとしてである。大菩薩峠での赤軍派逮捕に大きく貢献した民雄は、評価を得、赤軍派へのスパイとして重宝されるようになる。しかし、その潜入捜査のような任務ゆえに、民雄の精神は病んでゆく。身も心もぼろぼろになった民雄は公安部への出向をとかれ制服警官へと、そして父と同じく、天王寺派出所の警官となる。それをきっかけに、先の殺人事件、父の死の真相にたどりつくのだが、それを話す前に少女を人質に取った殺人犯に銃殺され殉職する。主人公と真相は孫の和也へ。和也は、大学卒業後、警察官となる。警察学校卒業後の現場研修後、警務課から呼び出された和也は、ある警察官の内務調査を極秘に依頼される。対象の警察官は裏社会との太いパイプゆえ、数々の手柄を上げてきた。しかしそのパイプは、警視庁のキャリア幹部とのつながりもあったのだ。彼の逮捕に大きく貢献した和也はその後、やはり祖父の死、父の死に疑問を持ち独自に調査、真相にたどりつくのだが。。 戦後から現代までそれぞれの犯罪をおいながら、最初の事件の伏線を張りつつ、最後にその真相を持ってくるという、ミステリではベタながらも最もおもしろい構成を根底に持っているのに加えて、実際に起きた事件をなぞりながらそこへ主人公たちを当てはめていく佐々木譲らしい手法に、歴史のロマンを感じずにはいられない、ミステリな歴史小説に仕上がっている。警官の血という主題もところどころ、ほろりとしてしまうよ。そういえば、端々に出てくるのが、薬物による悲劇である。過去の伏線が思いもよらぬところで、この薬物の悲劇を思い出させたり、主人公が危機におちいったり、恋人を失ったり(というか仕返しのような)。そんなものに逃げ道を作らずに現実を見つめたいものである。
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