
純情エレジー
豊島ミホ
2009年3月31日
新潮社
1,430円(税込)
小説・エッセイ
「会っている数日のあいだ、わたしたちはセックスしかしない。おぼえたての高校生のままみたいに」十七歳のわたしたちが互いに向けたのは、ただ、欲望だった。それから八年。上京した彼は年に一度だけ故郷に帰ってくる…。上京、就職、結婚と、人生で最初の岐路に立つ主人公が振り返る、忘れられないセックスの記憶。少女から女へ、少年から男へ。心と身体の移ろいを瑞々しく描きだす全七篇。
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(無題)
人は何故セックスするのだろうか。動物として子孫を残すため、これはいうまでもない。そんな動機以外に人は頻繁にセックスをする。それは時として愛情表現であったりコミュニケーションの手段であったりもする。あるいはもっと直接的に性欲の処理や男性性・女性性の肯定や確認のためもあるだろう。数々の男性遍歴を経て来た瀬戸内寂聴は、孤独なるゆえ、と言う。 どうしてセックスと結婚以外に男の人とつながる方法はないんだろう。こうとしか考えられない孤独な女性のセックスを描いた短編集が本書である。だから登場人物が交わす数々のセックスは、即物的で欲望に満ちている。作者はセックスの快感しか見つめていないようだ。実に物悲しい。だからエレジーなのだ。また、自信を持って愛情に迫れるほど世慣れていないから「純情」なのだろう。しかしながら、作者のその想いが読者にどれだけ伝わっているかは疑問が残る。 本書には七篇の短編が収録されている。そして何やら思わせぶりな表題がついている。 「十七歳スイッチ」 17歳のスイッチって何?そう、貴方の想像通り「やりたいスイッチ」である。 「あなたを沈める海」 あなたは照、そして遥が海。17歳の時に初めてセックス。それから照が1年に1回、田舎に帰ってくる時だけセックスしまくる。恋人ではない。1年に1度だけのか快楽の相手。 「指で習う」 これはかなり変態っぽい。弓子は西目に指で仕込まれる。書道の指導を指でする辺りが怪しい。 「春と光と君に届く」 これも変態っぽさが漂う。 セックスレスの夫婦。万一が自動車事故で植物状態に。しかし、感覚の残る中指の指先で夫婦のコミュニケーションが成立。それはセックスに通じる快感を伴うものだった。 「スイカの秘密を知ってるメロン」 スイカの秘密とは澄果との不倫。メロンは澄果の腹に宿る新たな生命。父親は 結婚を決めた澄果は、不倫を終わらせるつもりはない。 「避行」 「あなたを沈める海」は遥視線。こちらは照視線。一見ハッピーエンドに見える。しかし、実態は照が都会生活に行き詰まって遥の元に逃げ返って来ただけだ。計算高く受け身の遥が陰でほくそ笑んでいるとすれば、恐ろしい。 「結晶」 男性性の脆さ、女性性のしたたかさが対比的に描かれている。田舎育ちの男女が夢見て東京にでた。華やかな才能に恵まれ、成功が期待された久遠は夢破れてUターン。一方、地味でおとなしい大原は着実に都会人らしい歩を固めていく。
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