そして殺人者は野に放たれる
日垣隆
2003年12月20日
新潮社
1,540円(税込)
人文・思想・社会
「心神喪失」の名のもと、罪に問われぬヤツがいる!「歩き方が悪い」と四人を死傷させた凶悪犯、「テレビがうるさい」と二世帯五人を殺害した大学生、長男の受験を悲観して我が子三人を絞殺した母親。この国の無法ぶりを暴いた衝撃のノンフィクション。
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(無題)
大変に刺激的な書名である。いわゆる刑法第39条心神耗弱をテーマにしたノンフィクションである。10年にも渡る取材期間から積み上げられた著者の識見が、法曹界、精神医療界、マスコミのタブーに鋭く切り込んだ大労作である。 読み進めるほどに理不尽な現場に腹立たしく、不愉快な思いが次第に高まっていった。本書に取り上げられた犯罪者の群れは、アルコールや覚醒剤の勢いを借りて人を殺したり、精神病院への通院歴をもちながら冷静な計算を働かせて殺人を行った者である。殺したあげく彼らは「心神喪失」を演じる場合がある。まるで楽しむように人の体を幾度となく突き刺し、証拠を残さぬ工夫まで凝らした者が、不起訴とされ、無罪とされる。日本の司法は、結果ではなく、ひたすら動機をさばいている。法律実務家に「理解できない犯罪」は「なかったこと」にされ、殺された被害者やその遺族はいったいなぜ命を落とさなければならなかったのか、なにも知らされない。 息子を通り魔に殺された母親は、息子の治療費を全額自己負担しなければならなかった。ところが、殺したほうの男の怪我の治療費は全額国が出した。1996年、日本全体で加害者には国選弁護報酬と、食糧費+医療費+被服費に300億円も国が支出した。対照的に、被害者には遺族給付金と障害給付金を合計しても5億7,000万円しか払われていない。何と不条理な事か、私たちの納めた税金は、こんな使われ方をして欲しくない。そのうえ男は検察で「心神喪失」と判断され、不起訴になったのだ。男は犯罪者としてでなく精神病患者として数カ月間、精神病院に措置入院したあと社会に戻される。男がどこでどう暮らしているのか、遺族には伝えられない。国がひらいた会合に呼ばれて、その母親は訴えた。 「私たちがいくら訴えても、国がやることは精神障害犯罪者の身分保障につながることばかりで、被害者の身分保障につながるような政策は、ちっとも出てこないのです」。すると「人権派」を気取る弁護士は、「精神障害者の犯罪によって被害者が生まれない社会をつくっていこう、そういうことを私たちは大前提にして考えているわけですよ」と述べる。 十年にわたる取材の成果が収められた本書は、著者の「精神障害者を除いて犯罪は平常心で行える筈」という大前提が本質的に間違っているのではないかという仮説によっている。法曹関係者のみならず、司法精神医学にかかわる専門家の多くが、間違いなくこっそりと読んだであろう名著である。
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