私たちはなぜ税金を納めるのか

租税の経済思想史

新潮選書 新潮選書

諸富 徹

2013年5月24日

新潮社

1,980円(税込)

ビジネス・経済・就職

私たち市民にとって、税金とはいったい何なのか?また、国家にとって租税は財源調達手段なのか、それとも政策遂行手段なのか?17世紀イギリスの市民革命から21世紀のEU金融取引税まで、ジョン・ロックからケインズそしてジェームズ・トービンまでー世界の税制とそれを支えた経済思想の流れを辿り、「税」の本質を多角的に描き出す。

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Readeeユーザー

(無題)

starstarstar 3.0 2018年01月24日

納税は憲法で定められた国民の義務ですよね。『自分は税金なんて納めるのは嫌だ』なんて勝手なことを言い出したら、収拾がつかないどころか、国家の存続が危うくなりますよね。だから、国家は脱税に厳しく目を光らせているし、脱税への社会的制裁も極めて厳しいものがあります。また、誰もが納得できるように例外のない公平な税制でなければ社会正義を貫くことは叶いません。この原則は個人ばかりか、法人格を持つ企業にも当てはまるものだと思っていたところ、どうも企業には優遇措置があるらしいんですね。それは怪しからん、というのが先にレビューした「税金を払わない巨大企業」の趣旨でした。 どうして税金を払わなくちゃならないの、と子供に聞かれた時、貴方はどう答えますか。国民の義務だからと答えるのが一番簡単ですが、それは正しい説明ですかね。子供はなぜ義務なのかを聞きたいのですよ。援助交際をする女子高生に、売春は法律で禁じられているからやめなさい、と言っても納得しないのと同じです。ここは、税金とは何か、税金を納めるとはどういうことなのか、をしっかりと学ぶ必要がありそうです。本書は世界の税制とそれを支えた経済思想の流れを辿り、税の本質を多角的に描き出していますので、好適書です。 日本人の大部分は税金を「取られるもの」との感覚で捉えているのでないでしょうか。そこにあるのは、できるものならば、納税を避けたい、あるいは負担を減らしたい、との気持ちでありましょう。このように納税に消極的な国民を抱える我が国が世界第3位の経済大国の体面を維持できたのは、右肩上がりの経済成長による税収増のおかげでした。高度経済成長の元では税収が自然に増え、その結果増税せずにすんだのです。ところがいま直面する人口減少、超高齢化のもとでは、そうはいかなくなりました。積み上がる巨額の財政赤字と社会保障費の増大は、もはや増税なしに解決できない危険水域までに至りました。 租税とはそもそもなんでしょうか。本書では、哲学者のホッブズやロックが国家が市民の生命と財産を保護することへの対価だと考えたところから説き起こします。これは現在の私たちからすれば、ごく当たり前のことと感じますが、歴史の中で見つめ直した時、実は画期的な出来事だったのです。それは国家の担い手が王から市民へ転換する事だったからです。市民と国家の社会契約は、納税に積極的性をもたらし、納税を拒否する時は国家転覆を企てた時だったのです。それでは現在の私たち日本人の納税意識はどのようにして形作られたのでしょうか。そのルーツは明治政府が近代国家建設にドイツをモデルとした事に見いだすことができます。英国のように市民社会の成熟未だしのドイツでは、国家が近代社会の建設を主導する必要がありました。上から目線の改革ですね。ドイツの上からの改革に対して下からの改革を実現したのがアメリカでした。累進性を伴った所得税の導入です。これで応分負担の原則通りの公平な税制が確立されたのです。 本書では、このように17世紀からの租税思想史をたどるとともに、現在及び未来をも見据えます。グローバル化が進み、巨大な国際金融は国家でさえ制御できなくなったのが現在です。多国籍企業は租税回避のためにやすやすと国境を乗り越えてしまいます。著者はこの時代に税とは何か、国家とは何かと改めて問うたとき、制度疲労を乗り越える新たな仕組みを提案します。

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