だから日本はズレている
新潮新書
古市 憲寿
2014年4月17日
新潮社
858円(税込)
人文・思想・社会 / 新書
リーダーなんていらないし、絆じゃ一つになれないし、ネットで世界は変わらないし、若者に革命は起こせない。迷走を続けるこの国を二十九歳の社会学者が冷静に分析。日本人が追い続ける「見果てぬ夢」の正体に迫る。
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若き社会学者が今度はどんな発言をしているのか、興味半々、期待半々と言ったところでしょうか。著者の前作『絶望の国の幸福な若者たち』は、確かに衝撃的な内容を孕んでいました。この本を読んで、20代の若者との間に感覚的に大きな隔たりがあることを実感したものでした。その一方で、現状へのアンチテーゼとして提起したテーマを証明すべく、無理をしているな、と感じたことも事実です。その点、本書における著者は、肩の力が抜け説得力があります。 日本がズレている点の第一に著者が槍玉にあげるのは、指導者論です。先行き不透明で不安な時代には、強力な指導力を発揮する強いリーダーが求められると人々は考えていますが、著者はこれに真っ向から反対します。日本は首相がコロコロ変わっても、一向に困らないほど成熟した国なのだから、強いリーダーは必要無いという考え方です。これには僕も賛成ですね。集団的自衛権行使を憲法解釈の変更で認める強い首相より、この国には一つ一つ丁寧に手続きを踏む漸進的手法が求められていると思いますよ。 次は、東京オリンピック招致運動の当事者たちを『気持ち悪い』と感じる感覚です。僕も招致運動には違和感を覚えたひとりでした。お・も・て・な・しなんて、流行語になるほどでしたが、素直に乗れませんでした。開発途上国型のナショナリズム宣揚なんて、この国にはあっては、とっくに時代遅れになっているだろう、との思いです。世界にアッピールするとすれば、新しい資本主義のあり方や新しいエネルギーのあり方だ、との著者の主張に全く同感です。 本書では、こうした現実や未来への指向性からのズレを指摘しています。その多くは「おじさん」たちによってもたらされています。人畜無害のおじさんならたいしたことはないのですが、おじさんは、社会にあって権威であり、権力を握っているから厄介です。しかも、いくつかの幸運が重なっただけで得た既得権益を、自分で勝ち取ったものと疑いません。ですから、自らの価値観に何ら疑いを持とうとしないのですから、救いようがありません。 それで著者はそんなおじさんに覚醒を促すかと言えば、特段そんな事を声高に主張する事も無いんですね。デモにも行きませんし、政治にも期待しません。現代社会では政治にはもうそんな力は無いし、デモに行った事で何かことをなした様な気持ちになってしまう、自己満足の無意味さに気が付いているからです。 僕は根源的に凶暴性を秘めた資本主義の暴力の結果、生み出された格差はあってはいけないし、生のママの資本主義は規制されるべきだと考えるモノです。しかし、著者は大騒ぎする前に、目の前にある自分が出来ることを淡々と成し遂げている若者や豊かさを手に入れる戦いから降りて自分なりの満足な生活を追求する若者に可能性を見出しています。 この辺の考え方には、思わずハッとさせられましたね。何故なら、僕はもう終わった人間であるにもかかわらず、人生を降りていなかったのでは無いか、と思ったからです。
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