怒り(下)
吉田修一
2014年1月31日
中央公論新社
1,320円(税込)
小説・エッセイ
愛子は田代から秘密を打ち明けられ、疑いを持った優馬の前から直人が消え、泉は田中が暮らす無人島である発見をするー。衝撃のラストまでページをめくる手が止まらない。『悪人』から7年、吉田修一の新たなる代表作!
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(無題)
本書がミステリーでなかったことが、エンディングにまで来てようやく分かりました。何故って、最終章でこみ上げる涙を我慢できなかったからです。ミステリーでこんなに感動するはずがありません。僕の個人的感情体験を根拠にするのはおこがましいのですが、この小説はそれほど感動的であり、しかも多くの事を考えるキッカケを与えてくれる書でもあります。多くの人を涙を伴った感動へと誘うのは、疑いから信頼へと変化した時に誰の心にも生まれる暖かい幸福感です。ここに読者は、疑いの心は単に人間関係をギクシャクさせるばかりで、それとは逆に信頼すれば相手は勿論、むしろ自分自身に深い満足感を得ることができる、との永遠の真理を確認できるのです。 次には、書名になっている「怒り」について考えてみましょう。本書後半で拓哉が田中を刺殺すのは、明らかに怒りが動機となっています。では、冒頭での八王子における山神の殺人はどうなんでしょうか。殺された保育士に個人的な怨みなど、これっぽっちも持っていません。行きずりの山神に冷たい麦茶を与えてさえいるのです。今流行りの犯罪動機「むしゃくしゃしたから」でしようか。それでは、犯行現場に残された血文字や潜伏場所に赤いペンキで画かれた「怒」が理解できません。世の中が思い通りにならない事に常に腹を立て、山神は瞋恚の心に支配されて人殺しに走った事を暗示しているのでしょうか。 もう一つ、凶相についても触れておきたいと思います。僕はテレビで犯罪人が逮捕されたニュースが流れると、気をつけて犯人の顔を見るようにしています。こんな凶悪な犯罪を犯した奴はどんな顔をしているか、との興味は万国共通のようで、必ず犯人の顔写真を報道しますね。中には危険な雰囲気を漂わせたり、見るからに凶悪そうな顔付きで、近寄りたくない犯人もいますが、大部分は呆気らカランとした普通の人相で、肩透かしを食らったような気持ちにさせられます。ところがです、本書によれば普通の顔をしていても、凶悪な犯行を犯した人間や刑事には、分かると言うんです。では、どのように判断するのでしょう。罪を繰り返す者の顔には、諦念や貪欲さや幼稚さの糸のようなものが、それぞれの針で縫い付けられており、その引き攣れがある、のだそうです。また、イラつくと何するかわからない人間には、生と死の境が曖昧になっていて、自分の生に意味を見出せなくなっており、同時に他人の生にも意味がないものと考え、簡単に人を殺してしまうのだと言うのです。うーん、この辺の洞察力は素晴らしいですね。骨太の作品に出会えました。
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野いちごちゃん
消化不良
複数の人々の人間ドラマを描きながら進むこの話。話の展開、各個人の背景などとても興味深く読むことができた。しかし最後まで読み進めての本のタイトルである怒りと結びつけることができず、消化不良となった。
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