盤上の向日葵
柚月裕子
2017年8月31日
中央公論新社
1,980円(税込)
小説・エッセイ
埼玉県天木山山中で発見された白骨死体。遺留品である初代菊水月作の名駒を頼りに、叩き上げの刑事・石破と、かつてプロ棋士を志していた新米刑事・佐野のコンビが捜査を開始した。それから四か月、二人は厳冬の山形県天童市に降り立つ。向かう先は、将棋界のみならず、日本中から注目を浴びる竜昇戦の会場だ。世紀の対局の先に待っていた、壮絶な結末とはー!?
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(無題)
私はミステリーがあまり好きではないので、この著者の作品はほとんど読んでいない。それでも、18年の本屋大賞第2位なので、興味が湧いたのだった。ミステリーがなぜ好きでないかといえば、謎解きを重視するあまり、小説世界が人工的な肌合いになるからである。その点この作品はエンターテイメントの側面と人間の内面に鋭く迫ったヒューマンな側面とが見事に合致して、大変に秀逸な世界を紡ぎ出している。何もミステリー仕立てにしなくても、成功したのではないかとさえ思える。過去にも社会派ミステリーと呼ばれた松本清張の例もあることだから、それもありか、と思わせる。そういえば、松本清張の「砂の器」はハンセン病を扱っていたが、本作は精神病である。その点では、よく似た構成である。 さて、書名である。盤上とは将棋の盤である。将棋を知らなくても、読者をその世界に引きずり込んで、楽しませるエンターテイメント性に富んでいる。その手法は見事である。将棋は所詮はゲームである。だから人は縁台将棋を楽しむのである。ところが、一旦それを職業にしようと考えると、将棋は一変して苦行に変わる。プロになるには、まず、養成機関である奨励会に入ることが必須である。大会優勝などの実績とプロ棋士の推薦がないと受験さえできない。狭き門をくぐっても、期限内に一定の段位を取らないと退会させられる。過酷な戦いに勝ち抜く強い心が必要とされる世界だ。ここまでは、多くの人々に知られた棋界であるが、更に厳しい将棋世界がある。賭け将棋である。これは縁台将棋で小銭を賭けるのとはわけが違う。真剣師は賭け将棋で生きている訳だし、その勝負は命を削る戦いでもある。 また、向日葵とは炎の画家ゴッホが描くところの絵画「ひまわり」である。作者は、ひまわりの絵にゴッホの狂気を投影している。狂気の家系、血の宿業を背負った佳介は、不遇な少年時代を過ごした。母は早くに自死。父親は酒と賭け事に溺れてネグレクト。そんな桂介が「ここにいてもいい」と自らの存在を肯定できたのは、将棋で才能を発揮し始めてからであった。それでは真っ直ぐにプロ棋士の道に進むかといえば、父親が目の前に立ちはだかってそうはさせてくれない。奨励会入りしてプロを目指すのを諦めざるを得なかった佳介であった。しかし、人生何が幸いするかわらかないものだ。東大を卒業して外資系で働いたのち、IT企業を立ち上げて成功した佳介にもたらされたのは、巨万の富であった。更に佳介の運命を捻じ曲げるのが、父親と真剣師の2人であった。そこが本書をミステリーとしている所以である。
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