架空の犬と嘘をつく猫

風変わりな山吹の家族。ヘンな大人ばかりで振り回される紅と山吹。その静かな絶望というか無力感という気持ちがよく感じられる。そうだ、子供の時って、思うようにならないことばかりだったよね、と思い出すような感じ。 いつも誰かいなくて、いつも誰かを待っているような、そういう寂しさもある。 同じ家に育って、姉の紅と弟の山吹では正反対の性格になった。 山吹は穏やかで優しく、ぼーっとした男になり、紅は寂しくて家族を否定して家出して、ようやく自分を温めてくれる人を見つける。 後半、ぽろぽろ涙が止まらず、みんなそれぞれかわいそうでした。なかなか子供を産めない頼は、以前の自分にも重なるし、めちゃくちゃな要求をしてくるかな子は、そういう生活をしているんだろうし、たぶん幸せではなさそうだし。 山吹が終盤で、かな子を拒否できたのが、うれしかったです。ずっと、選べなかった、与えられるものしか手に入らなかった男の子が、自分の手で頼を手に入れ、かな子にはその手を差し伸べなかったのだから。 単行本の装画がとてもステキでした。 タイトルの架空の犬、は山吹が小さな頃、つらいことがあるとなでていた、いない犬。嘘をつく猫、は、羽猫という珍しい名字で、それぞれみんな嘘つきの、家族のことを指しているのだろう。 すごくよかったです。この著者の、他の作品も読みたい。

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