物語哲学の歴史
自分と世界を考えるために
中公新書
伊藤邦武
2012年10月31日
中央公論新社
990円(税込)
人文・思想・社会 / 新書
哲学とは何だろうかー。人間が世界と向き合い、自分の生の意味を顧みるとき、哲学は生まれた。古代から二一世紀の現代まで、人間は何を思考し、その精神の営為はどのような歴史を辿ってきたのだろうか。本書は、その歴史を「魂の哲学」から「意識の哲学」「言語の哲学」を経て、「生命の哲学」へと展開する一つのストーリーとして描く。ヘーゲル、シュペングラー、ローティの歴史哲学を超えた、新しい哲学史への招待。
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(無題)
中公新書の物語シリーズに『哲学の歴史』が加わった。『物語〜の歴史』は新書読書人を対象に「ザックリ言って、こういう事です」と解説する本であるだけに、真に分かっている人でなければ書けない本である。これまで20巻程度刊行されている。多くは例えば『中国の歴史』のように、中国5000年の歴史を分かりやすく『物語った』ものである。学問分野が細分化されている現代では、斯界の泰斗ともいうべき人のみが、物語を紡ぎ出せるはずである。さて、本書は古代から21世紀の現代まで、人間は何を思考し、その精神の営為はどのような歴史を辿ってきたのかを物語ろうと試みる壮大な意欲作である。 前置きが長くなったが、本書の内容に触れると、古代・中世の「魂」概念が渦巻く哲学から近代の意識の発見、20世紀の言語哲学への転換、さらに21世紀、古代とも似ているような生命の哲学へ。このような基本認識に基づいて、本書は哲学史を物語る。 「私は人間が光なく打ち捨てられて、いわば宇宙のこの一角に迷い込んで、誰によってそこに置かれたのか、何をしにここへ来たのか、死ねばどうなるのかを知ることなく、何を認識する能力も持たずにいることを見つめるとき、恐怖に襲われる」(パンセ)。それでは、私たちはこの根源的な問いに実際に答えることができるのだろうか。というよりもそもそも、哲学にははっきりとした解答があるのだろうか。これを追い続けた旅が哲学の歴史であるが、本書を通読して前述の疑問は氷解したかというと、浅学非才の身としては否と答えるしかない。 しかしながら、思想の世界の長い歴史は、数多くの鋭い理論的格闘を伴って人類とともにダイナミックに動き、それを滋養とした文化・文明は大規模な人類史を形づくっている事を理解できた事で良しとすべきなのだろう。
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