スタバトマーテル
中公文庫
近藤史恵
2004年6月30日
中央公論新社
712円(税込)
小説・エッセイ / 文庫
欠けたものは欠けたもの同士で、寄り添っていけばいいープロの資質を備えながらも、本番で歌えない声楽家・りり子。若くして高名を得ながら、母親なしでは作品を描けない版画家・大地。惹かれあい、つきあい始めた二人。しかしりり子に次々と危険が…!愛と不信が交錯する恋愛ミステリー。
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(無題)
スターバト・マーテルとはラテン語でかかれたカトリックの聖歌である。わが子イエス・キリストが磔刑となった時に母マリアが受けた悲しみを歌っている。乳幼児の死亡率が高かった中世にあって、この聖歌が多くの母親たちから同苦の感情で迎え入れられたのは想像に難くない。 母親が子に注ぐ愛情は、よく無償の愛と表現される。常に母から子への片方向で、気高く純潔なイメージを伴うものだ。それでは、誰にも等しく備わるこの母性愛とは一体なんなのであろうか。 こういう言い方は身もふたもないが、子を育て慈しむ母性は、種の保存の為にDNAに刻み込まれた遺伝子情報である。また、母親は見返りを求めずに献身的に子に愛情を注ぐように見えるが、実は母親の脳内では報酬系のシステムが働いて、脳内快楽物質が分泌されているのである。次の世代へと遺伝子が受け継がれていくとき、遺伝子にはおよそ60の「エラー」が発生すると言われていいる。遺伝子のコピーエラーは、進化の一つの要因として普通に起こっていることなのだ。仮にコピーエラーが起こって母性が「歪んで」しまったとしたら、どういくことになるのだろうか。本作は実に怖い物語である。
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