資本主義という謎

お友達がFacebookで紹介されていて面白そうだな、と。図書館で申し込んだら40人待ちとかだったのですが...立ち読みしたらあまりにも面白くて出張のお供に買ってしまいました。いかんせん国文学専攻な私にはいろいろと馴染みの無い記述も多くたかだか一泊二日の出張くらいでは読みきれなかったのですが^^; 個人的に、資本主義がなぜ西洋から生まれたのか、またそれはプロテスタンティズムとどう関係しているのか、今後も世界的に普遍的な第一のロジックなのか、に興味があったのと、更に外資にいるので右肩上がりの成長を前提としない資本主義の考えはあり得るのか、に興味があったのです。 入門編としては大変分かりやすくまとまっていてよかったのでは、と思いました。

미즈노 가즈오/오사와 마시치

ウインストン・チャーチルはかつて「民主主義ほど最悪のシステムはない。しかし、民主主義以上のシステムは存在しない」と述べた。けだし、名言である。本書の対談者・大澤はこのチャーチルの言葉、民主主義を資本主義に置き換えている。資本主義の負の側面が吹き出している今日、これも名言であろう。 また、小林秀雄は「60歳になれば、60歳の考えがあって良いだろう。若い人と同じ考え方を持つ必要はない。赤いチャンチャンコを贈られたら、着てみる事だ。日本には、昔から『隠居』という言葉がある。普段は小言幸兵衛で五月蝿がられているが、何か問題が起きると横丁のご隠居の所に相談に来る。ご隠居は長屋の連中に応えられる見識と智恵を備えている」と述べた事がある。全くの同感である。私のこれから目指すのは、横丁のご隠居である。 さて、私は既に経済活動のサプライサイドから引退している。事業経営の一線にある時はマクロ経済を踏まえた上で現実に対応する事業展開が求められる。その意味から水野和夫は信頼に足るエコノミストであった。 その水野和夫と社会学者の大澤真幸が対談し、成長なき資本主義が可能かどうかを思考実験したのが本書である。水野は、２０世紀末から、世界は成長なき時代に突入した、と述べる。成長、つまり国内総生産で計る経済活動の規模は、通常なら年数％ずつ大きくなるのが、近代のいわば常識だった。１７世紀に始まった西洋型資本主義は、フロンティアとコレクション（蒐集）が不可欠だった。欧州諸国は新大陸やアジア、アフリカのフロンティアを発見。石油ほか自然資源を安く調達し、自国の工業製品を高く売りつけ、富を蒐集してきた。投資によって、貨幣を増殖させ資本へと転化するのが資本主義の基本だ。 しかし辺境は必ず消滅し、蒐集は必ず過剰になる。ＢＲＩＣＳなど新興国が成長した現在、辺境はなくなり、蒐集によるカネ余りで、先進国の投資機会はなくなっている。辺境から資源簒奪の果てに同時多発テロが起き、「国内の低所得者」という辺境を無理にでっちあげて住宅ローンを貸し付け、サブプライムローン問題とリーマンショックを招来、安価に入手できなくなった石油にかわるエネルギーを切望しての果てに福島原発事故。西洋型資本主義のひとつながりの断末魔だ。これが水野史観のハイライトだ。 １９９７年以降、日本は世界に先駆け、長期金利が２％を切る超低金利時代に突入した。「利子率革命というべき異常事態で、世界史の中でも３回しか起きていない」と水野は語る。日本の低成長を、好況⇔不況の単なる景気循環だと理解すると、歴史を見誤る。むしろ、成長がなくても幸福で活力ある社会をどうやって築くかが問われている。